第5話
今の俺には三人くらい相手にしても勝つ自信があった。今だってワルは変わっていない。
ただボクシングをやりたくて我慢しているだけだ。
俺は半端じゃないワルだ。しかし今日を最後にしたいと思っている。
俺は奴等三人を丸裸にして写真を撮ってやった。それと誓約書を一筆書かせた。
警察に突き出さない代わりに今回の件は忘れろ、それがお互いの為だとも付け加えた。
これを機に俺もワルを卒業してボクシングの道に進みたい。いつまでもワルでは生きて行けない。
その翌日、俺は統子に奴等の書いた誓約書を渡した。
「統子、これでお前も安心だろう。もうこの出来事は誰も知らない。俺も忘れる」
「ありがとう。でも誓約書は優くんが持っていてくれる。一生この恩は忘れないわ」
「ああ、それもそうだな。こんなのを見たら嫌なものを思い出すもんな」
そして翌年、俺は高校二年になりボクシングで県大会個人の部で優勝した。
統子もコーラス部で同じく県大会で団体優勝。団体ではあるが喜びは同じだ。
俺たちはいつの間にか、あれから交際していた。
ただ統子の心の傷は消えた訳ではない。そんな心の傷を俺は知っている奴等を除き唯一の人間である。
だから俺は付き合うようになって一年が経つのにキス以外に求めた事はない。
統子との交際は誰にも知られていない。俺みたいな不良と噂になったら統子の評判も悪くなる。
統子に誓った訳ではないが、俺のワルは影を潜めボクシング一筋に励んだ。
それも統子の優しさがあったからだ。人を苛めて得る快感よりも、恋する快感は何事よりも素晴らしい。
あの出来事がなかったら統子との出会いもなかっただろう。
妙な縁だが俺は統子の生涯忘れられない傷を、これ以上痛まないように包んであげたい。
そんな気遣いの交際であった。でも統子は俺の心遣いを愛に変えてくれた。
統子の優しさに俺は酔った。これが恋か愛なのか? そして一生この手で守ってやりたいと思った。
今ではすっかり明るくなった統子。輝く統子の笑顔は美しく俺の太陽のようだ。
更に一年が過ぎ、俺たちは卒業した。統子は当然だが俺が卒業出来たのは奇跡に近い。
卒業出来た恩人? 全てが統子との出会いから始まった。
統子の前では真面目で優しい人間でなければ付き合う資格がない。
周りが驚くほど真面目を演じた。いや統子の前だけは本物の真面目を貫いた。
そしてもう一人、俺にボクシングへの道へ誘ってくれたセンコーのお陰だ。
俺は柄にもなく『先生の教えは生涯忘れません』と汗をかきながら精一杯感謝の言葉を述べた。
俺の進路は東京のボクシングジムに通いながらアルバイトをすることに決めた。
統子も同じく東京の音楽事務所で勉強しながら歌手になる事を目標に、互いの将来を夢見て社会へ踏み出して行った。
つづく




