~北九州・境界観測録~ 「125ccのスクーターで巡る、ちょっと不思議な北九州散歩」
処女作です 宜しくお願いします
夜、同じ道を走っていた。
スクーターのヘッドライトが切り裂く先に、いつもの看板が見える――はずだった。
白く、夜の底でそこだけが浮き上がって見える、見慣れた光。
通り過ぎてから、数メートル。
喉の渇きを思い出し、不自然にブレーキを握った。
引き返す。
さっき寄ろうと思ったはずだ。記憶の中の自分は、確かにあの光を視認していた。
戻る。
同じ場所のはずだった。
速度を落とし、左を見る。
なかった。
コンビニが、ない。
惰性で進むスクーターを止め、もう一度戻る。
やはり、ない。
そこは、ただの更地だった。
あまりに綺麗に、何もない。
フェンスもなければ、工事予告の看板一つ立っていない。
アスファルトが唐突に途切れ、その先だけ土の色が違っている。
建物があった場所だけが、影のように四角く地面に焼き付いているのが分かった。
スクーターのエンジンを切り、路肩に止める。
昼に通ったときは、自動ドアが開く音を聞いた。
棚から飲み物を選び、レジで会計を済ませた。
袋の擦れる音、店員の無機質な声。
そこまで細部を思い出せるのに、目の前には「存在した痕跡」すら残されていない。
ポケットを探る。
紙の感触がある。
取り出す。
レシートだった。
店名も、品目も、金額も、
すべて黒く塗りつぶされている。
折り目のところだけ、白い。
代わりに、小銭が少しだけ増えている。
指先に触れる硬貨の冷たさだけが残る。
土を踏んでみる。
そこだけが、粘土のように妙に柔らかい。
整地したばかりのようだが、
その境界線から外は、数十年使い古されたままのアスファルトだ。
店に戻ると、九十九が外に立っていた。
夜の冷気の中で煙草に火をつけ、こちらを値踏みするように見ている。
「なあ」
声をかけると、彼はこちらの動揺を見透かしたように目だけを向けた。
「さっきまであったコンビニが、消えてるんだよ。跡形もなく」
少しの間。
九十九は肺の中のものをすべて吐き出すように、長く煙を燻らせた。
「ああ。あれか」
それだけ言う。
「昨日も、今日の昼も、あそこで買い物をしたんだ。確かな記憶がある」
畳み掛けると、彼は面倒くさそうに視線を空へ逃がした。
「消えるときはな、まとめて消えるんだよ。前後も、左右もな」
「……工事の差し押さえか何かか?」
そう聞くと、九十九は憐れむように、小さく笑った。
少し間があって、
「順番が、ずれただけだ」
それ以上、彼は何も語らなかった。
煙草を靴底で踏み消すと、いつもの足取りで店の中へ消えていく。
もう一度だけ、あの場所へ戻ってみた。
やはり、更地だ。
街灯の光が、建物に遮られることなく地面を白々と照らしている。
帰りに、別の自販機で水を買った。
コインを投入し、ボタンを押す。
ガタン、と重い音がして、ペットボトルが落ちてくる。
手に取る。
そのとき、指先がひどく冷えた。
さっきのコンビニで買ったものと、同じ冷たさだ。
ラベルの色も、ペットボトルの形状も、寸分違わない。
だが、それが「今」買ったものなのか、それとも「さっき」買ったものなのか。
帰り道、ミラー越しに一度だけ振り返った。
暗い道の途中に、ぽっかりと空いた不自然な空白。
その中心で、一瞬だけ。
看板のあった場所が、光よりも深い「黒」に塗りつぶされた。
雰囲気重視




