3、モテ期は突然に。隣のクラスの委員長は回避
楽しくお読みいただけましたら、幸いです。
「藍くん、文化祭は何をするのか決めたの?」
廊下を歩いていると、女子に声をかけられた。
モテ期二人目の女子。
スラッとした高身長のモデルさんのような黒い長い髪が特徴の徳井さん。
徳井さんは隣のクラスの委員長をしている。
そして、僕は自分のクラスの委員長だ。
委員長というのは仕事が多く、忙しい。
他のクラスの委員長とは委員会の集まりでよく見るから自然と仲良くなる。
そして特別、仲良くなったのが徳井さんだ。
徳井さんは、委員長の仕事をするのが初めてで、高校の三年間の全て委員長になっている僕を頼ってきていた。
「僕のクラスはカフェにしたよ」
「えっ、もう決まったの?」
「うん。クラスの子に親御さんがいてさ、監修してもらうことになったんだよ」
「そうなの? いいなあ」
徳井さんは悪い子ではない。
だけど、少し距離が近い。
距離感が分からない人っているよね?
だから以前は、付き合っているなんて噂が流れだしたこともあった。
それを忘れていた僕は少し徳井さんとの距離を置くように離れる。
僕が気を付ければ徳井さんは回避できるはず。
あっ、桜子が向こうの方向から歩いてくるのが見えた。
徳井さんと一緒にいる所は見られたくはない。
「桜子」
僕は桜子に向かって歩み寄る。
「きゃっ」
僕の後ろから徳井さんの声がした後、徳井さんに腕を掴まれた。
振り向くと、徳井さんが転びそうになったようで、僕の腕を掴んでいた。
これを桜子に見られたらおしまいだ。
まずは、徳井さんをしっかりと立たせて大丈夫だということを確認する。
すぐに桜子がいた方を見ると、桜子はいなかった。
見られただろうか?
後で、桜子に訊こう。
「なぁ、桜子」
「あっ、ごめんね。トイレに行ってくるわ」
桜子に徳井さんとのことを訊こうとしたのに。
「なぁ、桜子」
「あっ、先生に呼ばれてたんだ」
桜子は逃げていくように教室を出ていった。
怪しい。
なんでそんなに避けるんだよ?
「なぁ、桜子、次は何?」
「えっ」
僕は桜子が何か用事を言う前に訊いた。
桜子は驚いた後、うつむいた。
「なんで避けるわけ?」
「だって、悪いかなって」
「何が?」
「隣のクラスの委員長に」
「徳井さん? 何で?」
「仲良く見えたから」
その言葉を聞いて、桜子があの現場を見ていたことに気付いた。
「何、言ってんの? 徳井さんが転びそうになって、僕の腕を掴んだだけだよ」
僕は桜子の頭をポンポンと撫でた。
桜子は嬉しそうにしていた。
「でも、ドキドキしたでしょう?」
「どうだろう? 中身はおじさんだからドキドキよりも転ばなくてよかったっていう安心感が大きかったかな?」
おじさんに近い僕は、人生経験をつんだおかげで、小さなことではドキドキなんてしない。
ましてや、桜子以外は子供に見えてしまう。
「中身はおじさん?」
「あっ、いやっ、僕って、おじさんみたいな考えを持っているだろう?」
「そう?」
彼女は納得していないようだったけど、誤魔化したのだから、なんとかきり抜けたはず。
「お~い、藍」
向こうの方から自称、桜子のお兄さんが手招きをしている。
仕方なく近寄る。
「なんだよ?」
「お前さ、絶対にバレるなよ」
「はあ?」
「中身は二十九歳の立派な男性だってことをな」
「分かってるよ。バレたら僕は変態呼ばわりだからね」
「そうだよ。二十九歳の立派な男性がこんなピチピチの女子高生に囲まれているなんて、女子高生からしたら鳥肌もんだろ?」
それってお前も一緒だろう?
「それは言い過ぎだ。二十九歳立派な男性に謝れよ。それにお前はもっと年上だろう?」
「俺の心は七歳で止まってんの」
「何が七歳だよ。七歳の知能じゃねぇよ」
「ところで、どう? 桜子を救えそうか?」
「手応えは分からないけど、以前とは違う選択をしているのは確かだ」
「そうか。まだ時間はあるから、ちゃんと桜子の反応を見ながら、判断を間違えるなよ」
「分かってるよ」
僕と同じくらい桜子を心配しているコイツは、確かに兄貴なんだと思う。
やっと、コイツを信じられた気がした。
「それで、名前は何?」
「は? 俺の? 桜子の兄貴の名前を知らないのかよ?」
「うん。だって桜子はお兄ちゃんって呼ぶし」
「百太郎」
「えっ、あの昔話の?」
「漢字が違う。果物の桃じゃなくて漢数字の百で、モモだよ」
「そっか。それじゃあ、これからはモモって呼ぶよ」
「俺、一応だけど先生なんで、モモ先生だろう?」
モモはそう言って僕のおでこにデコピンをしてきた。
手加減なしでやるから痛かったけど、兄貴ができるとこんな感じなのかなって思った。
「お兄ちゃん、藍、行くよ。今から全校集会だよ」
僕とモモは桜子に呼ばれて嬉しくなり笑顔になっていた。
「俺が先に桜子に呼ばれた」
「お前は子供かよ」
「俺は七歳だから子供だよ」
「だるっ」
桜子を見ると、ニコニコと笑って嬉しそう。
そういえば、桜子のこんな顔を見たのはどのくらい前だろうか?
高校卒業してから、大学も仕事も忙しくて桜子のことなんて考えられなかった。
桜子の婚約を聞いた時も、仕事のことで頭がいっぱいになっていた。
仕事を忘れて桜子のことを考えた時に、やっと桜子が僕を選ばなかったことにショックを受けたんだ。
大事な桜子を手離したのは僕だったのかもしれない。
僕に、桜子の婚約をどうこう言う資格はない。
先に手離したのは僕なんだから。
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~次話予告~
次のモテ期の相手はギャル。
お金持ちのギャルに好きだと言われても、それでも藍には桜子だけ。
桜子のことばかり考える。




