2、モテ期は突然に。隣の席の女子は回避
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
僕は高校三年生で、幼馴染みの桜子も高校三年生。
しかし、僕の中身は二十九歳のおじさんと呼ばれる枠に片足を突っ込んでいる状態だ。
そんなおじさんが、女子高生がいる高校へ行くのは良いのだろうか?
見た目は高校生だから良いのかもしれないが、ピチピチの女子高生がいるのだ。
男としては、なんだか悪い気がしてくる。
ごめんよ、僕の同級生や下級生達よ。
「藍?」
「うわっ」
桜子が僕の顔を覗き込むから驚いてしまった。
美少女の顔が間近にあるのは、心臓に悪い。
「そんなに驚かなくてもいいでしょう?」
「あっ、ごめん」
「いいわよ。それで? 何があったの?」
「何って?」
「だって、今日の藍は変だよ?」
「あっ、いやっ、何もないよ」
「そうなの?」
彼女は悲しそうな顔をした。
なんでそんな顔をするんだよ?
「本当に何もないよ」
僕は彼女の頭をポンポンと撫でた。
彼女は嬉しそうにして笑った。
これで彼女の機嫌は直った。
「あっ、お兄ちゃん」
お兄ちゃん?
桜子のお兄さんは亡くなっているはずだが?
彼女は制服を着ていない男に駆け寄っている。
後ろ姿だけでは誰なのか分からない。
すると、その男は振り向いた。
アイツだった。
大きな天使の羽も天使の輪っかもないけれど、無駄なイケメン。
何でいるんだよ?
「お兄ちゃん、教育実習はどう?」
「あっ、うん。まあまあだよ」
「そうなんだね。早く立派な先生にならなきゃね」
「そうだな」
桜子に、お兄ちゃんと呼ばれる奴は、桜子の頭を撫でている。
桜子に触るなよな。
「藍と話があるから、桜子は先に教室に行ってな」
「うん」
桜子は、教室へと向かっていった。
二人だけになる。
僕は目の前にいる奴を睨み付ける。
「そんなに睨むなよな」
「だって、お前は亡くなっているはずなのに、何で生きてんだよ?」
「いいじゃん。俺がいてもいなくても、桜子の人生は変わらないんだからな」
「だからって、記憶を変えるなよ」
「俺が生きてるか生きてないかの違いだろう? そんなに怒るなよな」
桜子が毎年、命日にお墓に行って泣いているのを知らないのかよ?
「分かってるから」
「まだ心の声が聞こえるのかよ?」
「いいや、でもお前の言いたいことは分かるから」
「あっそ。それで? なんでいるわけ?」
「お前だけじゃ心配だからだよ」
「一人で大丈夫だよ」
「本当か? 桜子の何をどう変えれば死ぬ運命から逃れられるか分かるのかよ?」
そういえばそうだ。
僕は何も分からない。
彼女の命がかかっているのに、何も分からない。
「まずは、期限がある」
「期限?」
「そう。文化祭が終わるまでだ」
「へぇ~、二ヶ月くらいかぁ」
「それと、結果は期限が切れたと同時に分かる」
「同時に分かる?」
「お前が生きれば桜子も生きる。だけどお前が死ねば、、、」
目の前の奴が途中で言うのをやめたが、言いたいことは分かる。
しかし、途中経過も分からない。
一発勝負ってところだよな。
「あっ、藍くん」
後ろから甲高い声が僕を呼ぶ。
振り向くと、同じクラスの稲田さんがいた。
彼女はよく覚えている。
隣の席になって仲良くなると、いつの間にか僕を束縛するようになった。
席替えがあるまでは、稲田さんの束縛から逃げられなかった。
せっかく可愛らしい顔なのに、もったいない。
そしてこれが僕のモテ期の始まりだった。
「おはよう、稲田さん」
「おはよう。藍くん。せっかく隣の席なんだし、一緒に行こうよ」
「あっ、そうだね」
今は稲田さんを怒らせないようにして、束縛をどうにかして回避しなければ。
教室へ入り自分の席に近付くと、後ろの席の桜子と目が合った。
桜子はすぐに目をそらす。
なんだよ?
そんなに嫌がらなくてもいいだろう?
「藍くん。今日は教科書は忘れていないわよね?」
「あ~大丈夫だと思うよ」
稲田さんと仲良くなったきっかけは、僕が教科書を忘れたからだった。
もう二度と同じ間違いをしない、、、はずだった。
ヤバイ、社会の教科書がない。
稲田さんに教科書を借りたくなくて、隣のクラスの友達に教科書を借りた。
それを稲田さんは見ていた。
悔しそうにしているのを見て、僕はガッツポーズを小さくした。
「嘘、ない」
先生が教室へ入ってきてすぐに、後ろの席の桜子が小さな声で言った。
僕は振り向き桜子を見る。
「どうした?」
「教科書がないの」
「はあ? 桜子が忘れ物なんて珍しいじゃん」
「ちゃんと入れたのに」
そんな僕達の会話を聞いていた稲田さんがこちらを見る。
「藍くんが教科書を貸してあげればいいんじゃないの? 今日は、桜子ちゃんの隣の席の人はお休みだし」
それは困る。
そうなると、僕は稲田さんと教科書を見る羽目になる。
以前と同じになってしまう。
考えろ。
何が一番良い選択なのか。
桜子の隣の席の人は休みだから、、、。
「桜子、教科書を一緒に見ようか?」
僕はそう言うと桜子の隣の席に座り、桜子の机に机をくっつけた。
これが一番良い方法だ。
稲田さんとは仲良くならないようにして、桜子も守れる。
桜子を見ると、嬉しそうにしてから、小さく口パクでありがとうと言った。
可愛い桜子。
桜子を守るためにしているのに、僕の心が桜子に救われているような感覚になる。
以前は、稲田さんが嫌で仕方なかったから、桜子が後ろにいることさえ忘れていた。
桜子がいてくれるだけでこんなにも僕は救われるんだ。
必ず桜子を守る。
これは絶対だ。
「ねぇ、藍。これを見てよ」
桜子は、社会の教科書の人物の写真に落書きされているのを見つけて言った。
人物の写真に髭が描いてあったり、坊主の写真には髪の毛を一本描いたりとそんなに面白くないが、桜子が笑うから、僕まで笑ってしまった。
先生にうるさいと怒られたが、二人とも怒られたのも面白くて二人でまた笑ってしまった。
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~次話予告~
次のモテ期の相手は隣のクラスの委員長。
委員長は距離感が分からない女子。
藍は、どうやって回避する?




