魂のるつぼ!カオスと本音の集団面接狂騒曲
タチバナ君がネビュラ戦記で壮大な(そして今のところ芳しくない)実験を始めてから数日。俺、サイトウのオフィスには、今日も新たな魂たちが集まっていた。ただし、今日は少し趣が違う。普段は個別面談が基本だが、稀に「特定異世界への合同募集」や「適性検査結果が類似した魂の一括説明会」といった形で、集団面談を行うことがあるのだ。そして、今日がまさにその日だった。
オフィスの中央に設えられた円卓を囲むように、五つの魂が緊張した面持ちで座っている。その姿は、まさに多種多様だ。
一番手前には、見るからに体育会系の熱血そうな青年魂、イノウエ・ゴウキ君。生前の姿を投影しているのだろう、少し汗臭そうな(魂なのに!)ジャージ姿で、その瞳はギラギラと燃えている。声もやけにデカい。
その隣には、物静かで知的な雰囲気の女性魂、ササキ・シオリさん。シンプルなブラウスにロングスカート、眼鏡の奥の瞳は冷静で、声も落ち着いたアルトだ。
テーブルの向かい側には、どこか飄々とした掴みどころのない中年男性の魂、タナカ・ヒロシさん。くたびれたスーツを着崩し、ネクタイは緩みっぱなし。その表情はどこか眠たげで、声も間の抜けたようなトーンだ。
そして、その隣でやけに存在感を放っているのが、ミヤザキ・ユイナさん。まるでピンク色のオーラでも纏っているかのように派手な服装で(フリルとレースが満載だ)、髪もキラキラと光っている(魂なのに!)。声も甲高く、常に周囲の注目を浴びたがっているのが見て取れる。
最後に、テーブルの隅で小さくなっているのが、真面目そうな青年魂、オカダ・マコト君。地味なグレーのスーツ姿で、常に少し俯き加減。声も小さく、自信なさげな雰囲気が漂っている。
「えー、本日はお集まりいただきありがとうございます。異世界就活支援センターのサイトウです。本日は、皆さんの魂の特性や希望を総合的に判断し、いくつかの異世界への適性について、合同でご説明および面談をさせていただきます」
俺はいつものように挨拶をしたが、内心は少しだけ気を引き締めていた。集団面談は、個々の魂の特性を見極めるのが難しい上に、魂同士の相性や発言が互いに影響し合うため、コントロールが非常に難しいのだ。この個性的な面々なら、なおさらだ。
まず、一人ずつ簡単な自己紹介と、異世界への希望を述べてもらうことにした。
トップバッターは、やはりイノウエ君。
「押忍!イノウエッス!生前は万年補欠の野球部員でしたが、根性と気合だけは誰にも負けません!異世界では、正々堂々、拳一つで成り上がれるような、熱いバトルができる世界を希望します!押忍!」
…実にわかりやすい。彼の魂からは、純粋な闘争心と、少しばかりの空回り感が溢れ出ている。
次に、ササキさん。
「ササキと申します。生前は図書館司書をしておりました。ですので、できれば静かで、知的好奇心を満たせるような世界…例えば、古代文明の謎が眠る遺跡や、失われた魔法知識を研究できるような場所があればと…」
彼女からは、落ち着いた知性と、探求心が感じられる。コバヤシさんと少しタイプが似ているかもしれない。
三番目は、タナカさん。
「どーも、タナカです。生前は…まあ、色々ありましてね。特にコレといった特技もないんですが、まあ、そこそこ器用な方だとは思います。異世界ですか? うーん、美味しいものが食べられて、適度に楽できて、たまに面白いことがあれば、それでいいかなーなんて」
…掴みどころがない。こういうタイプは、意外な適性を持っていることもあれば、本当に何も考えていないだけのこともあるから厄介だ。
四番目は、ミヤザキさん。
「ミヤザキユイナですっ! 生前は読者モデルとかやってました! 希望は、もちろん、私が主役になれるキラキラした世界! イケメン王子様に見初められて、豪華なドレスを着て、毎日パーティーみたいな! あ、あと、魔法とかも使えたらサイコーなんですけど!」
…なるほど、典型的な「お姫様願望」タイプか。自己顕示欲が強そうだ。
そして最後、オカダ君。
「オ、オカダです…。生前は市役所の職員でした…。特に大きな夢とかは無いんですが、誰かの役に立てる、地道な仕事ができればと思っています…。できれば、あまり危険じゃないところがいいんですが…」
彼の魂からは、誠実さと、少しばかりの臆病さが感じられた。
(…さて、見事にバラバラな個性と希望だな。まさに魂のるつぼだ)
俺は内心で苦笑しつつ、それぞれの魂の特性と、データベース上の求人情報を照らし合わせ始めた。
「まず、イノウエさん。あなたのその熱意と体力は素晴らしいですね。例えば、こちらの『闘技場都市ヴァルハラ』などはいかがでしょう? 純粋な実力主義で、日夜様々な種族の戦士たちが腕を競い合っています。成り上がれば莫大な富と名声が得られますが、もちろん命の保証はありません」
「おおっ!最高じゃないスか!俺、そういうの待ってました!」
イノウエ君は目を輝かせる。単純で助かる。
「次に、ササキさん。あなたの知的好奇心を満たせる世界として、『禁断の書庫エルミナ』の文献修復師、あるいは『古代遺跡群アトランティス』の調査員などが考えられます。どちらも危険は少ないですが、非常に根気のいる仕事です」
「まあ…!素晴らしいですわ。ぜひ、詳しくお聞かせ願えますか?」
ササキさんも乗り気のようだ。
ここで、タナカさんが口を挟んできた。
「ねえサイトウさん、俺みたいなのには何かないの? なんかこう、楽して儲かるみたいなやつ」
「タナカさん、残念ながら『楽して儲かる』異世界というのは、大抵裏がありますよ。例えば、こちらの『黄金郷エルドラドー(ただし呪いの番人付き)』とか…」
「うわ、それはちょっと…パスで」
タナカさんは顔をしかめる。やはり、都合の良い話はそうそうないのだ。
そして、問題はミヤザキさんとオカダ君だ。
ミヤザキさんの希望する「キラキラお姫様世界」は、ヤマダ君が希望した「勇者ハーレム世界」と同じく、非常に競争率が高い。しかも、彼女の魂の履歴書には、読者モデル以外の特筆すべきスキルが見当たらない。
一方、オカダ君は「誰かの役に立ちたい」という気持ちは強いが、極度にリスクを恐れているため、提案できる異世界が限られてくる。
「ミヤザキさん、あなたの希望されるような世界は、非常に人気が高く…」
俺がそう言いかけた時、ミヤザキさんはオカダ君の方をチラリと見て、わざとらしく大きなため息をついた。
「はぁ…なんか、地味な人と一緒のグループってテンション下がるんですけど。もっとこう、イケメンで将来有望な魂とかいないんですかぁ? 私のオーラが霞んじゃうじゃないですか」
その言葉に、オカダ君は明らかに傷ついた表情で俯いてしまった。その小さな背中が、さらに小さく見える。
「ミヤザキさん、そのような発言は控えていただけますか。ここは皆さんが真剣に将来を考える場です」
俺が少し強い口調で注意すると、ミヤザキさんは不満そうに唇を尖らせ、「だって本当のことじゃないですかー」と小声で呟いた。
(まずいな、空気が最悪だ…これが集団面談の怖いところだ)
魂同士の負の相互作用が、場を支配しようとしている。
ここで、意外な助け舟を出したのは、飄々としていたタナカさんだった。
「まあまあ、お嬢ちゃんもそうカッカしないでよ。見た目が全てじゃないって。ほら、オカダ君だって、真面目そうだし、いざって時にコツコツやるタイプかもしんないぜ? 縁の下の力持ちってやつだよ」
タナカさんはオカダ君の肩をポンと叩いた。オカダ君は驚いたように顔を上げる。
「え、あ、ありがとうございます…」
「それにしてもサイトウさん、このオカダ君みたいなタイプは、地道だけど確実に社会を支える人材になるんじゃないの? 例えば、災害復興支援とか、インフラ整備とかさ。派手さはないけど、誰かがやらないといけない仕事だろ? 俺には無理だけどな、そういう面倒くさいのは」
タナカさんの言葉には、どこか経験に裏打ちされたような説得力と、いつもの軽薄さが混じっていた。
「タナカさんのおっしゃる通りです。オカダさん、あなたの誠実さと実務能力は、例えばこちらの『復興都市ホープランド』の行政官など、非常に重要な役割を担える可能性があります。確かに危険が伴うこともありますが、多くの人々から感謝される、やりがいのある仕事ですよ」
俺がそう提案すると、オカダ君の瞳に、ほんの少しだが光が灯った。
その様子を見ていたイノウエ君も、ガバッと立ち上がって叫ぶ。
「そうッスよ!地味とか関係ないッス!一生懸命やってるヤツはカッコいいんスよ!俺、そういうヤツ、尊敬するッス!オカダさん、ファイトッス!」
純粋なイノウエ君の言葉は、オカダ君だけでなく、場の空気も少し和ませた。
ササキさんも静かに頷く。
「ええ、私もそう思います。それぞれの場所で、それぞれの役割があるのですから。華やかさだけが価値ではありませんわ」
ミヤザキさんは、まだ少し不満そうだったが、周りの雰囲気に押されたのか、黙り込んでいる。その表情には、ほんの少しだけ、何かを考えているような色が見えた。
(…少し、流れが変わってきたか?)
俺は、魂同士の相互作用が、必ずしも悪い方向にばかり働くわけではないことを実感していた。
「さて、ミヤザキさん。あなたのご希望ですが…確かに『お姫様』になるのは難しいかもしれません。ですが、あなたのその華やかさや、人前に出る度胸を活かせる場所はあるはずです。例えば…」
俺は、ある異世界の求人票を提示した。それは、新興のエンターテイメント都市で、様々なショーやイベントが開催されている場所だった。
「こちらの『夢幻都市ドリームキャッスル』では、新しいアイドルやパフォーマーを常に募集しています。あなたのルックスと自己アピール力は、ここでなら大きな武器になるかもしれませんよ? もちろん、実力の世界ですから、努力は必要ですが、ファンを熱狂させるスターになれる可能性もあります」
ミヤザキさんは、その求人票を食い入るように見つめた。
「アイドル…パフォーマー…私が、ステージの真ん中に…?」
彼女の瞳が、キラキラと輝き始めた。それは、お姫様とは違うかもしれないが、彼女が本当に求めていた「自分が主役になれる場所」への期待感だった。そして、ほんの少しだけ、彼女の表情が和らいだように見えた。
「…まあ、悪くないかも。王子様に見初められるより、自分でファンを掴む方が、カッコイイかもしれないし…ねぇ、サイトウさん、そこのお給料とか、どんな感じなんです?」
いつもの調子は変わらないが、その声には先ほどまでの刺々しさは薄れていた。そして、チラリとオカダ君の方を見て、「…あんたも、頑張んなさいよ」と、ぶっきらぼうだが、どこか応援するような言葉を呟いた。
こうして、一時はどうなることかと思った集団面談だったが、それぞれの魂が、それぞれの進むべき道を見出し始めたようだった。
魂の個性は本当に様々で、時にぶつかり合い、時に意外な形で影響し合う。それを上手く導き、それぞれの輝ける場所へと送り出す。それが、この仕事の難しさであり、そして何よりも大きなやりがいなのだと、俺は改めて感じていた。
集団面談が終わる頃には、最初はバラバラだった五つの魂の間に、どこか不思議な連帯感のようなものが生まれているように見えた。
彼らがそれぞれの新しい世界で、どんな物語を紡いでいくのか。
俺は、少しばかりの疲労感と共に、確かな手応えを感じながら、次の面談の準備を始めた。