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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢? いいえ、悪役令状です。

作者: 西の宮

「王族だ! はやく開けよ!!!」

「なにしてんだ、あぁ??」 バンバン

「やかましいな、はやく出てこい!!!」ガチャガチャガチャガチャガチャ


 私達の屋敷を取り囲び、叫び声をあげるのは

 この国が誇る?クロス騎士団。



「旦那様、既に屋敷は クロス騎士団に囲まれております!」



 普段は、口元の微笑を欠かすことのない、執事長クロスカンが動揺し

額から汗をかいている姿を始めて目にする。



「お父様っ」

「あなたッ、これは……!」


「本当に、来たのか――」


 母マルガネルや、妹のリリアンヌが、父上に心配そうな目を向ける。



「お父様、相手は脳筋で名高い クロス騎士団。

話し合いが出来る方々とは、思えません」


 リリーが、ぶるぶると体を震わせながら、涙がこぼれる。



「あなた、私もご一緒します。何があっても、最後まで一緒だと

初めてお会いしたあの日に約束したでしょう?」

「マルガネル。いやマリー、ここは私に任せなさい。

リリー、公爵家の娘が、そんなに簡単に涙を流してはいけないよ」


 流石は父上、あらくれ者の騎士団に取り囲まれいても

 貴族の矜持は、全くブレていない。



「ほら、顔を上げて。リリーの可愛い顔を、私に見せてくれ。

自慢の娘を、悪役令嬢にするような令状なんて、私が細切れにして来るからな」

「ユリファスは……流石我が息子。この落ち着きよう、誇らしいよ」



 母上と妹が、心配そうな表情で、父上に想いを伝えるが

どうやら、父上は令状に応じるつもりはないらしい。


 相手は、王族の寄こしたクロス騎士団という名の、あらくれ者達

話し合い次第では、我がカルネアデス家の存亡に関わる。

ならば、私がやる事は――


「父上、私も同席します」


海千山千の父上でも、娘の元に、悪役令状が届くのは初めてのこと

彼等の対応を、父1人に任せるのは危ないな。



「ユリファス、お前も 同席すると? うむ、よかろう」

「マリー、リリー。 お前達は、マリーの部屋に戻っていなさい。

彼等との話し合いが終わったら、私とユリファスから話がある」



 2人を、母上の部屋に帰した後



「悪役礼状を持ってくるのが、この国の荒くれ者の代名詞 クロス騎士団とはな」

「ええ、しかも公爵家を取り囲んでこの騒ぎ。

とても、王族の使者とは思えませんね」



 夜という、非常識な時間にやって来たコトもだが

騎士団が公爵家を取り囲み、罵声を上げるとは思わなかったな。



「旦那様、お客様達を お連れしました」



 コンコン、と 扉をノックする音と共に

少し緊張感が混じった、クロスカンの声が、使者達を連れてきた事を知らせる。



 父と一瞬、チラリと目を合わせた後、覚悟を決める。



「うむ……中に入ってもらえ」



 入って来たのは、2人の屈強な大男達。

王族の紋章が入った、紋鎧を身にまとう彼等が、悪役令状を任された使者か。



「はじめまして、カルネアデス公爵。

夜分にお騒がせして申し訳ありません、何かと、血の気の多い連中でしてねぇ。

私は、ナナシと申します」

「我は、ナシナシと呼んでいただければ。

紋鎧を脱がない非礼を、寛大な心でお許しいただきたいね」



 今更、非礼を詫びるだと? 

クロス騎士団も、随分と格式高くなったものじゃないか。



「非礼しかないが……このままでは話が進まないな。

それで? こんな夜更けに、何用かね?」



 彼等がやってきた理由は、わかっているものの

 あえて、知らぬふりをする父上もなかなか



「この度、国王陛下からカルネアデス公爵家に、【悪役令状】が発付されました。

ナースナガル国 聖女法に則り、聖女アンナのため

カルネアデス公爵家 リリアンヌ・フォン・カルネアデス嬢には

来月のナースナガル王立学園の入学式から、卒業までの4年間を悪役令嬢としてすごして頂きます」

「既にお聞きとは思いますが、先日見つかった、聖女アンナは先々代と同じ平民でしてね。 

そこで、カルネアデス公爵家の力を借りしたいと、陛下は仰せです」



 ここ最近王都では、41年ぶりの聖女の発見が、話題となっていたが

彼女が、リリーと同い年というのを聞いてから、嫌な予感はあった。



「断固拒否する、聖女を正しく導くのは、王族の仕事では?

リリアンヌが、悪役令嬢を演じる必要があるとは、思えませんな」



 父上の声は冷静だが

その言葉の端々からは、騎士団に負けず劣らず怒気が混じっている。



「これは、陛下からの令状ですよ」

「カルネアデス家は、悪役令状に逆らわれるおつもりで?」



 この【悪役令状】というのは、上位貴族が受け取りたくない、王族からの令状 不動のNo.1

ナースナガル国に聖女が現れた時、彼女達を厳しく導くため

令状を受け取った者は、学園内外で悪役令嬢として振舞うように求められる令状(ラブレター)


 平民や下位貴族の多い、一般科に聖女が入学すると

彼女の魔力にあてられ、狂信的となった平民達による事件が起きたこともあったと聞く。


 耐性の強い中位や上位貴族 王族も、同世代で通えるのは幸運とされ、親しくなる者が多かったが

いち臣民から、聖女という急激な立場の変化や、自らの力に溺れた結果 傲慢な生徒と成り果てた彼女達の学園時代は、ナースナガル学園の汚点として残っている。



 彼女達が残した負の歴史を憂いた、数代前の国王が考案したのが【悪役礼状】



 学園内外で、傲慢になりがちな聖女を諫めるため

同学年となる上位貴族に、王族からの「依頼」として

悪役令嬢として聖女と共に学園生活をおくり、聖女を見守るのだが

実際には「勅命」なので、断われた前例はない。


 

 大事な妹の、4年間の学園生活を、悪役令嬢として過ごし

聖女の保護という名分で、リリアンヌも令状に従い悪役令嬢として振舞っているか

逐一、王族に監視・報告されるため、学園内外での自由が奪われるに等しい。



「それに、リリアンヌには、フィリップ公の嫡男 ヴォルフという婚約者が居る。

悪役令嬢を演じるなど、聖女のためであっても許せるわけがない」



 5年前に婚約した、妹の許嫁。フィリップ公爵の嫡男・ヴォルフ。

最初は、政略結婚として決まったが、毎日のように妹の口から語られる

ヴォルフとの恋仲は、今やカルネアデス家の食卓を飾る会話の華となっている。


 おそらく、妹とヴォルフが婚約する前に、フィリップ家との婚約を狙っていたと聞く

アインツハイン家が、王族に働きかけ、我が家への悪役礼状を画策したのだろう。

妹の学園生活が、犠牲になるなど絶対に許せない。



「――そういえば、リリアンヌ嬢はフィリップ家に婚約相手がいましたっけねぇ。

仮にですよ、フィリップ家から婚約破棄されたのなら、受ければよろしいのでは?

この程度で婚約破棄を言い出す婚約者なら、2人の愛は、その程度だったということですし」

「我も同感だな。愛があるなら、本当に好きな相手と結ばれるものだ。

悪役令嬢を演じるだけで、破棄するような相手と付き合っているのかね?」



 王族の使いが、カルネアデス家に軽々に、婚約破棄を提案するとは。

流石は騎士団の中でも悪名高いクロス騎士団。外の喧騒も、相変わらず騒々しいし。



「政略結婚ならともかく、リリアンヌとヴォルフ殿は、互いを想っている仲だ!

貴族の娘が、婚約破棄を受ける意味がわからないとは、言わせんぞ?」



 父上は、妹と彼の事を考え、反論してくれるものの

これは、王族からの依頼……いや、勅命。拒否出来る方法が、実質無い。

下手をすれば、王族への反逆の意思アリとも取られかねない

さて、どうするか――



「ほんの4年間 悪役令嬢を演じよ、というだけでそこまで拒まれるとはねぇ。

卒業後には王族から、悪役令状が開示されますし、悪役令嬢としてこの国に尽くしたリリアンヌ嬢なら

今の婚約者より素晴らしい方と結ばれる未来を、迎えるかもしれませんよ?」


  

 ヴォルフとの恋路を邪魔するだけでなく、既にリリアンヌが別れる予想までしていたのか


  

「悪役令嬢を演じた、先代の話を聞いていれば、拒むに決まってるだろう。

生涯に渡って、悪役令嬢の色眼鏡で見られ続け

社交界は疎か、貴族間のささやかな茶会にすら出られず、国を去ったヴィクトリア様の事を、王族は忘れたと言わせん!」



 先代悪役令嬢 ヴィクトリア様の悲惨な歴史は、以前祖父達から聞いた。

聖女・ナーナリーのため、悪役令状を引き受け、聖女に接したヴィクトリア様だが

卒業後、当時の国王から「聖女のために、悪役令嬢を演じて貰っていた」と明かされたが



「陛下は、ああおっしゃっていたけど、ねぇ……」

「あれがヴィクトリア様の、本当のお姿なんでしょう?」

「あんな恐ろしい女と婚約していたなんて、学園時代に婚約破棄しておいて良かった」

「いくら王族に貢いで、陛下にあんな事を言わせたのやら。流石は 侯爵家ですな?」



「悪役礼状」を知らなかった貴族や、平民達からのヴィクトリア様への見方は変わる事なく

悪役令嬢の名があらゆる場面で付きまとった結果、自ら爵位を返上し、国を去った。



「私が持ってきた悪役令状に、拒否権など無いと思っていただきたいですねぇ」

「このまま悪役礼状に背かれるのなら、カルネアデス家が取り潰されるのは時間の問題ですな。

今夜は、“たまたま”門前に騎士団が控えてますし、賢明な判断をされたがよろしいのでは?」

 


やはり、最初から拒否権はないらしい。

ならば――



「お話し中に失礼、カルネアデス家 嫡男のユリファスです。

この場での発言を、お許しいただきたい。

悪役令状には女性でないと、執行出来ないとは書いておりません。

先代悪役令嬢 ヴィクトリカ様の爵位返上を受け、見直されましたからね」


「流石は、カルネアデス家のご子息、おっしゃる通りです。

アンナ嬢を厳しく導けるのなら、性別は問いません。

むろん、彼女の魔力に耐性のない者には、務まりませんがねぇ」



 王族の勅命に、騎士団という後ろ盾まで持ってきた、傲慢な声色

 やはり、ここも想定内か。



「でしたら、ユリファス殿が、悪役令息として立候補されますか? 

リリアンヌ嬢よりは2歳上ですが、「悪役令嬢」ではなく「悪役令息」

兄が最初の2年を、妹が残りを演じる。

新しい試みも、面白いかもしれませんねぇ」



「ダメに決まっているだろう!

大切な娘や息子を、子供達を悪役に出来るわけがない」

「あれもダメ、これもダメ。

まるで子供のように、駄々をこねてばかりですねぇ、どうなさるおつもりです?」



子供のよう?なぜわからないのだろう。

王族や騎士団が相手でも、我が子を守ろうと戦う、この誇らしい父の姿が。



「――では、ナースナガル王立学園の生徒達で、悪役令状を執行しましょう」



提案するなら ここだろう。



「……はぁ?」

「ユリファス殿? 君は何を言って――」



 使者達が、間の抜けた声を漏らす。

この返答は、さすがに想定していなかったようだが、勝負はここから!



「なにを、言ってるのかねぇ?

これは魔力の耐性持ちが少ない、平民や下位貴族が多い一般科には、厳しい役ですよ」

「ええ、ですから上位貴族である、我々や侯爵家、伯爵家……

せっかくの機会ですので、アンネ嬢に耐性がある下位貴族や平民も居れば、協力してもらいましょう」



 まぬけなくらい口をぽかんと開け、何を言い出したんだ コイツは

 という表情を隠しきれない使者達に話を続ける



「つまりですね、リリアンヌやアンネ嬢が過ごす学園生活の4年間を

ナースナガル王立学園という舞台で、悪役令息・悪役令嬢・悪役平民を演じるのです」

「悪役令状は、聖女による学園内の負の歴史を増やさないために、生徒が悪役を演じるもの。

ならば悪役も私の妹だけでなく、貴族はもちろん、平民達も巻き込んで、学園内外で悪役を演じればいいじゃないですか」


「悪役令嬢 みんなでやれば 怖くない、とも言いますし」



そんな言葉あったっけ?

うん、あったね。

多分あった、今出来た。



「平民出身のアンヌ嬢が、貴族科に編入出来るのは、おそらく2年生の後期から3年生に上がる時。

仮に入学時から妹が、悪役令嬢を演じても、同じ貴族科のクラスメイトとして過ごすのは、まだまだ先です」



 妹と同級生にはなるが、平民出身のアンネ嬢が貴族のマナーを叩きこまれ

貴族科に編入して来るまで、最短で見積もっても おそらく1年半強……

同級生とはいえ、貴族科と一般科では、2人が学園内で接する時間も多くない。

貴族科に編入するまでの2年近くを共にするのは、クラスメイト達になる下位貴族と平民達だ。



「随分と、公爵家は冗談がお好きと伺えるねぇ。 

王族が貴族だけでなく、平民にも協力を申し出ろと?」

「……我は、彼の提案に一理あると思うね」



片方の使者の声に怒りが混じるが、もう1人には刺さったようだ。



「平民出身のアンネ嬢が、貴族科に編入出来るのは、先例を振り返っても、早くて2年生の半ばから後期。

たしかに、貴族科と一般科の接点は少なかったね」

「気は確かかねぇ? それは貴殿が、悪役令状を受け取ってなかったからでは?」

「いや、学園内の生活は身分だけでなく、魔力や金銭の問題で、利用出来る場所が限られる。

むろんアンネ嬢には、王族からの特別措置があるだろうが、貴族科と一般科の生活は、同じ学園生活と言っても別物といっていいね」


 

 クロス騎士団にしては、やけに貴族科に詳しいじゃないか?



「……実は、我も貴族科を卒業したが、かつて一般科に、想いを寄せる娘が居ましてね。

彼女と過ごす時間を増やしたいと、友人や下位貴族の協力も得て、色々と段取りをつけたが

結局、共に過ごす時間や場所が少なかったことを、この身で知っている」

「ふん?」


「この限られた時間というのが、また格別でしてね!

婚約者に隠れて、彼女と過ごす時間はまさに至福。

妻とは、今でも学園時代の話で盛り上がりますね。それに――」

「貴殿の婚約破棄騒動の真相を、こんな所で聞く事になるとは思わなかったねぇ」



饒舌に、昔話を語りだした騎士には、面を食らったがなんという幸運……

二股のクソ野郎だが、貴族科と一般科の接点が少ない事を知る者が、使者として来るとは嬉しい誤算だ。


やはり、リリアンヌはもっている。



「話はわかった、では一旦この話を陛下の元に、持ち帰るとしようかねぇ」

「そうですね、こればかりは王族の判断にゆだねるしかあるまい」

 


 2人が顔を見合わせながら、席を立とうとしているので



「最後に、少しよろしいでしょうか? 

我が家に来られた騎士団の方々ですが、公爵家を取り囲むのは、いかがなものかと。 

それと【悪役礼状】を届けに来たとはいえ、騎士団が王族を名乗るのは、不敬では?」



 陛下の命を受けた者達とはいえ、公爵家を取り囲み

騎士団が王族を名乗るなど 処されても仕方ない言動である。


「我等は、もう終わりですね……」


遠い目を浮かべながら、帰っていく彼等は

訪宅した時と違って、葬儀のように物静かだった。



「子供達が悪役を演るのなら、私も悪役っぽいヒゲを伸ばした方がいいかな?」

「父上の出番は、ほとんどありませんよ。

それよりも、リリアンヌの髪型を縦ロールにするか 早速話し合いしましょう。

悪役令嬢感が要りますし……妹はハーフアップより、縦ロールが似合うと思ってたんです」



――こうして入学式の日を迎え

悪役学生達による 舞台の幕が、ゆっくり上がる。

勢いだけで書きましたが、9割ほど変わりましたね。

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