短編1
今夜はしゅうまいだよ!
母の明るい声が響く。引っ越して1年とちょっと、ぼくは8歳になったころだった。
当時、父の転勤と職種転換により、少しひもじい生活をしていた。
ご馳走は焼き鮭であり、肉なんてものはとうに口にしていなかった。
今夜はしゅうまいだよ!
念願の肉だ。
否応なしに高揚した気分になる。
念願の肉だ。
ワクワクしながら夕食の時間を待つ。
夕食の時間になり、2個上の姉と期待を膨らませて食卓につく。
すでにお世辞にも広いとは言えない居間には香ばしい匂いが立ち込めている。
しゅうまいだ、焼売だ、肉だ、ご馳走だ。
めいいっぱい膨らんだ期待を胸に食卓につく。
さぁ焼売のお出ました。
…しゅうまい?焼売?
そこには焼売にも似ても似つかない、長方形の物体が、仰々しくもキャベツの千切りとともに盛り付けられている。
それは堀川のしゅうまい揚げであった。
しゅうまいであって焼売でない。
これは焼売じゃない!!
僕の悲痛な声が響く。
間違いではない、母も僕も。
母が泉下の客となり、はや10余年、ぼくはスーパーのかまぼこ売り場で20%引きになった堀川のしゅうまい揚げに出会う。
あの時の母はどんな気持ちでシュウマイと言ったのか、それは冗談であったのか、ひもじい食事の中、子供らの今日のご飯は何?攻撃への些細な反撃であったのか、今はもうわからない。
あの頃あんなに憎かったしゅうまい揚げは、母の思い出と、幼い頃の話しの種として、今もスーパーの片隅に立派に鎮座している。
明日のお弁当はしゅうまいだ。
期待を胸に弁当に詰める函館の夜。
堀川のしゅうまい揚げ5本入り238円
食の思い出はずっと忘れられません。そんなエピソードです。(ノンフィクション)