理解する
冷めた瞳のお父様は、無言で腕を差し出した。
「あの?」
……私が尋ねても、何も言わない。
数秒遅れて、エスコートをしてくれるらしいことがわかった。
とりあえず、その腕に手を添えると、お父様は足早に歩き出した。
「お父様、実は私ーー。……わたし」
学園を卒業してから結婚式を挙げるまでの記憶がないので、式の流れとか教えてくださらないでしょうか。
言おうとした言葉は、口の中で溶けて消えた。
そんなこと言えそうな雰囲気ではなかった。
お父様はすたすたと歩いて行ってしまうので、半ば引きずられるような格好で歩く。
……あれ。
本当に、このひとお父様?
お父様ってば、前はもっと優しかったし、こんな絶対零度みたいな空気を出していたわけではないと思うの。
……もしかして。
『嫌われハードモード』という言葉が頭の中に浮かぶ。
確かに今までの私は、愛されイージーモードと言われても納得なほど、薔薇色人生だった。
誰にも好かれたし。
多少の失敗は、目を瞑ってもらえた。
ヒロイン補正かと思っていたけれど、でも、それらが全て、システム面のことだったなら。
……まずい。
まだ、学園生活をやり直すなら良かった。
しかしここは、エンディング後の世界だ。
でも、乙女ゲームにエンディング後の世界なんてなかった。つまり、私はこれからのシナリオなんて知らない。
腐ってもこの世界が乙女ゲームなのだとしたら、多少のドキドキはあるだろう。……でも。
乙女ゲームでも、ヒロインが選択肢によって死ぬゲームなんてごまんとある。
しかもこれはハードモードの世界だ。
あれ?
もしかして、わりとピンチ?
焦っている間に、お父様が大きな扉の前で止まった。
どうやら、結婚式の会場に着いたみたいだ。
「……お可哀想に」
お父様は、小さく呟いた。
お可哀想?
でも、私にいうなら、可哀想に、な気がする。
じゃあお父様が可哀想に思ったのは……。
「!」
扉が開いた。
私が幼い頃、憧れていたままの大きな教会。
ステンドグラスが光を浴びてキラキラと輝いている。
赤い絨毯の上をお父様にエスコートされて歩き出す。
来賓の冷たい視線がちくちくどころかざくざくささる。
その中には、私が友人として仲良くしていた人たちや、お姉様、お兄様もいた。
お父様が止まった。
新郎の前についたからだ。
新郎であるラウル殿下の瞳も絶対零度もかくやという冷たさだった。
あんなに、俺のベルとか言ってきたくせに、愛は微塵も感じられなかった。
……ああ。
どうやらここは、本当にハードモードの世界のようだった。
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