3 初対面
コンポジット伯爵邸を出発して、馬車に揺られること三日、やっとボンディング公爵のお屋敷に着いた。
ああ、腰が痛いわ。
これでも伯爵家でいちばん豪華な馬車なんだけど、やっぱり馬車は所詮馬車よね。
ステアリングが悪いのよ、車輪にゴムとか巻いてみたらどうかしら?
サスペンションもいいわね。車体と車輪軸の間をバネでこう・・・・・・
「コンポジット伯爵家ご令嬢、リリア・コンポジット様、ようこそおいでくださいました。ボンディング公爵家の執事をしております、セバスと申します」
馬車の前に立つ50代半ばくらいのナイスミドルが深々と頭を下げた。
セバスって執事にありがちな名前。
さすが日本の乙女ゲームの世界だわ。
セバスの後ろの沢山の使用人たちも、セバスに合わせて頭を下げる。
さすが公爵家。
お屋敷も伯爵邸とは比べ物にならないくらいでかけりゃ、使用人の数も半端ない。
でもまあ、王宮はもっとすごかったからね、慣れたもんよ。
というか、前世アイドル時代の東京ドームでの55000人コンサートや終わりの見えないサイン会や握手会を普通にこなしてた私からしてみたら大したことではないわ。
私は優雅な仕草で馬車から降りると、にっこりと微笑んで返事をした。
「コンポジット伯爵家から参りましたリリアですわ。ご丁寧なお出迎え、ありがとう存じます」
「・・・・・・で、では、こちらにどうぞ。公爵が首を長くして待っております」
ボンディング公爵、王太子命令で無理矢理結婚させられるっていうのに首を長くして待ってたの?
しかも花嫁は王太子のお下がりよ?
ああ、なるほど、幾人ものご令嬢に婚姻の打診を断られてるらしいものね。
もう、結婚できるなら誰でもいいって境地にまで追い込まれているのかしら。
でもね、私はやっぱり愛したい。
夫婦になるんだもの。
愛したいし、愛されたい。
例えこの結婚がトーマスからの命令だとしても。
「ボンディング公爵家の当主、レオナルド・ボンディングです」
広い客間のでっかいソファから立ち上がったレオナルド・ボンディングが挨拶してきた。
「・・・・・・・・・・」
私は一瞬言葉が出ない。
が、直ぐに気を取り直して挨拶を返す。
「コンポジット伯爵家から参りました、リリアでございます」
前から見ても、後ろから見ても、右から見ても、左から見ても、美しい所作でお嬢の礼をした。
「・・・・今日は遠い所を大変でしたね。疲れてはいませんか?」
「いえ、ボンディング公爵様に会えるのを楽しみにしておりましたから。時間など気にならないくらい、あっという間でしたわ」
「そ、そうですか。しかし、噂通りの見た目でガッカリなさったでしょう?」
噂通りの見た目って、魔物のようなってこと?
魔物ってこんな顔じゃないと思うわよ?
だって、だって、
めっっっっちゃカッコいいもの!!
この顔を魔物だなんて誰が言ったのよ?!
これは私の好みのタイプど真ん中!
見上げるほどの長身は2メートル以上ありそう。
筋骨隆々のたくましく引き締まった体つきに、相手を射抜くような鋭い三白眼。
濃い茶色の髪の毛は根本から立ち上がり、触ると痛そうなくらいの毛質だ。
そしてこめかみから頬を通り、顎まで伸びる大きな傷跡。
その姿は前世で大ファンだったスーパーヘビー級のボクサーのよう。
そして声!
今まで聞いてきた、どんな声優よりも素敵なイケメンボイス!!
ああ!さすがトーマス、私の好みを知り尽くしている男!
くそとか言ってゴメンなさい!!
ありがとう!愛しているわ!
「・・・・・・リリア嬢?」
はっ!
ボンディング公爵のあまりのイケメンぶりに、何処か遠くの世界に行ってしまっていたわ。
「わ、わたくしったら、も、申し訳ございません。ボンディング公爵があんまり素敵な方でしたから・・・・・・」
「・・・・・・は?素敵?い、いや、そのように気を使わなくとも、私は貴女を取って食いはしない」
「気を使うだなんて、とんでもございませんわ。ボンディング様は本当に素敵ですもの。わたくし、トーマス殿下に感謝しなければなりませんわね!」
「そ、それでは貴女はこの私との婚約に快く応じて下さると?」
は?婚約?このまま結婚するんじゃないの?
トーマスは嫁げって言ったわよね?
「婚約?このまま婚姻を結ぶのではないのですか?わたくし、トーマス殿下からそのように言われて参ったのですが・・・・・・」
「え、いや、トーマス殿下からは一年間の婚約の後、お互いが望むなら婚姻を結ぶといい、と言われているのですが」
Oh!!トーマース!!!
あんた、なんて素晴らしいの!
やっぱりトーマスは私の味方!
今度会ったらほっぺにチューしてあげよう!
嫌がって怒って逃げると思うけど、追いかけ回して捕まえて絶対チューしちゃうんだから!
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4 初対面
~レオナルド・ボンディング目線 へ