ありふれた生活
※挿絵あり
直接的な性描写はございません。
この物語はフィクションであり、実在する団体・人物・事件等とは一切関係ありません。
雨が降っていた。
人っ子一人いない公園で、暗雲立ち込める空の下で、私は声を殺して泣いていた。母親は何処に行ったのだろう。この場所に連れてこられて目を瞑っていろと言われ、再び目を開けた時には誰も居なかった。何故母の言うことを聞いたのか。薄々、こうなると分かっていたのだろうか。
びちゃびちゃと泥濘んだ地面を歩き、途方に暮れた。誰かに踏まれたミミズがじっとこちらを見つめているようだった。
これが、私が思い出せる一番古い記憶。
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「はい。これ今回の分ね。」
「…ありがとうございます。」
これではまだ全然足りない。学費も生活費も全て自分で払わなければならないから。いや、へこたれるな。全部、自分で決めたことだ。施設の人に反対されても進学を選んだのは自分だ。私は、私のために生きるのだ。
「…雨だ。」
雨が降ると親に捨てられたあの日のことが蘇る。結局あの日、明け方まで雨に打たれていた私は近隣の大人に通報されて施設送りになった。母親はいつまで経っても現れず、気がつけば私はあの場所で10年以上暮らしていた。アスファルトに打ち付ける雨は染み込むことなく流れていく。今思えばあの踏みつけられたミミズは私だったのかも知れない。窒息から逃れるために地上に這い出て、誰にも見向きされないまま体を潰される。どんなに私が足掻いても、奪われて踏みつけられるだけの人生なのかもしれない。普通の幸せなど手に入らないのかもしれない。
でも、それでも、私は幸せになりたい。
私には教師になるという夢がある。施設にいた私より幼い子どもたちに私は文字の読み書きを教えることができた。絵本を読んであげられた。私にとってそれは自分の価値を見出させてくれた。私は子どもに夢を与えられる人になりたい。だから、今がどんなに苦しくても私は___
「………だ、誰?」
ありふれた生活 終