-98- 差
悲しければ涙を流しやすくなるが、侘しいからといって涙を流す人は泣き上戸の人ぐらいだろう。^^ 両者の間には大きな差があるようだ。
とある中央省庁である。審議官の室端は[泣きの室さん]という陰の異名を持つ、涙なくしては語れない人物だった。それも酒の席だけでなく、日常生活全般を通して、だった。仕事でぅぅぅ…と涙を流し、トイレに入っては涙を流し、勤務を終えて家に入った途端、涙を流すのだから、これはもう、脳が発する涙腺機能が故障してるとしか思えない…と誰もが噂をしていた。そして今日も、室端の泣きの勤務が始まったのである。
審議官室に入った室端は席に着いた途端、デスクに平伏し、よよ…と泣き崩れた。慌てたのは秘書官の口輪である。
「し、審議官! い、如何されましたっ!」
「口輪君か、おはよう。ぅぅぅ…昨日ね、〇〇さんがね、ぅぅぅ…」
「〇〇さんが、どうかされましたっ!?」
「〇〇さんが、同郷じゃないかっ! って言ったんだよ…」
「はあ、それで…」
「それだけなんだがねっ! ぅぅぅ…」
秘書官の口輪は、そんなことでフツゥ~涙を流すかな…と思うでなく思いながら室端の顔をチラ見した。だが、泣きの室さんの涙は毎度のことである。出世する人ってのは、考え方に差があるんだなぁ~自分も見習おう…と、口輪は改めて思い直した。
「左様でしたか、ぅぅぅ…」
「口輪さん、分かってくれるかね、ぅぅぅ…」
「ぅぅぅ…審議官、分かりますともっ!!」
「ぅぅぅ…そうかっ!!」
二人は両手を握り合いながら涙に暮れた。^^
世間は広い…とは、よく言われますが、こんな中央省庁なら慣行や慣例に左右されず、日本の未来は起債が消えてバラ色になるんでしょうね、たぶん…。^^ 現実との差は歴然ですから侘しいお話になりますが…。^^
完




