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-9- 頭髪
あれだけあった頭髪が、これだけしかないのか…と侘しい気分にさせられた舘花は、鏡を見ながら無念に思った。減ったものは仕方がない。だが増やすことは人工増毛に頼らないと不可能なのである。生命の老いは世界を動かすまでなった舘花でも如何とも出来なかった。舘花は考えた。増毛技術の開発に数十億を拠出することなど、舘花にとってそう難しい話ではなかったのである。
「あっ! 君。アレどうなってる?」
「会長、アレと申されますとナニですか?」
会長付きの秘書課長、蟹川が訝しげに訊き返した。
「…ナニ? そうそう、ナニだよ、蟹川君」
「ナニは近々ですと、数日前、連絡が入りました」
「そうかいっ!! ははは…これで」
舘花は満足げに片手を頭にやり、ニンマリした顔で捏ね繰り回した。だが、館花と蟹川のナニには違いがあった。蟹川のナニは競合企業との合併話だった。頭髪を増毛する薬と合併話では大きな違いがある。^^ その違いを知ったとき、館花は何とも言えず、侘しい気分になった。
完