-88- 追う
何ごとにつけても追う側の立場は強く、侘しい思いに暮れることもない。その逆で、追われる立場は実に侘しい。こちらの立場は良し悪しに関わらず言える事実である。良い場合だと仕事に追われる・・などがそれに該当する。悪い場合だと犯罪を犯した犯人が官憲に追われる・・などが相当する。孰れにせよ、追われるより追う立場で生きられるに越したことはない。私など、この年末のクソ忙しさにアレコレと追われている情けない状況だ。お笑いいただきたい。出来れば、ははは…と大声で呵うのではなく、含み哂い程度にてご勘弁を…。^^
刑事課警部の月嶋は犯人を追っていた。だが、時効まであと一週間を切ろうとしていたから、餅を搗いて食ってる場合じゃないな…と月ウサギにでもなった気分で侘しく水を飲んだ。
「月さん、ヤツの塒です…」
月嶋付きの警部補、餅川が小声で囁いた。
「やはり、そうかっ! ここまでが長かったな…」
それから犯人の出入りを交互に見張る、侘しい寝ずの番が始まった。
やがて…犯人は時効前に捕まった・・というのが、目出たし目出たしで終わる筋書きですが、私は知りません。笑いながら餅ならぬ肉饅を食べている二人の姿を見れば、自ずとお分かりと存じます。寝ずの番をして捕まらなかったなんてドジは、話になりません。^^
完




