-77- 優(やさ)しさ
文明が進歩した現代社会は、人々の他に対する優しさが次第に薄れているように思え、実に侘しい。他とは人だけでなく、自分以外の全てに対してである。私の作品中に[川柳百選]という拙い川柳集があるが、その中の一句で詠んだ愚作に[豊かさは 心と物が 反比例]がある。その心は?^^ と問われれば、心の優しさが物質が豊かになった分だけ萎んでいく・・と皮肉った愚直な句だが、まさに、今まさにそう思えるのは私だろうか…。残念っ!^^
とある中央官庁の万年平職員である奥目は疲れ切った肩を揉みながら、パソコンの入力作業を終えた。いや、終えたと本人は思っていた。ところが、その入力にはミスがあった。
「奥目君、ちょっと…」
課長に呼び出された奥目は、いつものことながらビクビクしながら課長席へと急いだ。
「これだがね…。間違っとったよ! 毎度のことだが、君は手間がかかるね。やり直してくれたまえ…」
間違えた上に、嫌味まで言われた奥目はすっかり侘しい気分で自席へ戻った。その様子の一部始終を奥目の後輩職員の出歯が見ていた。出歯は閉庁になった夕刻、雑用に託けて一人、間違った書類入力をし、奥目のデスクに何げなく置いておいた。出歯の優しさである。
翌朝である。デスクに置かれた書類に置かれた書類に気づき、奥目は課長席へ急行した。
「課長、出来ました…」
「嘘だろっ! 昨日の今日だよ。まあ、いい…。君にしては上出来だ」
お褒めに預かり恐縮に存ずる…と、お武家風に思いながら、奥目は課長に一礼した。かろうじて面目を保てた奥目は、誰だろうな…と課内を見回しながら自席へと戻った。
現実の世の中でも、こうした優しさに満ちた正義の味方がいっぱい欲しいですよね。^^
完




