-74- 気温
寒くても気分はよくないし、当然、暑すぎてもいいはずがない。それほど人の感覚は繊細なのである。不思議なことに寒暖の気温が極端な場合、侘しい気分が遠退く。これはある意味、寒暖の効用とも言えるが、正直言って侘しさに暮れるゆとりが身体にないのだ。頃合いの気温で見る春の花や秋に見る中秋の名月など、楚々とした状況下で侘しい気分は訪れる訳だ。侘しい気分になるのは結構、難しいのである。^^
町役場の生活環境課に長年勤める酒樽はイラついていた。課に設置されたエアコンがよく故障するからだ。それも暑くなって冷房を入れたいときとか寒くなって温まりたい…と思ったときに故障するのだ。それでいて修理を電気専門店の店員に依頼すれば、嘘のように動くのだった。
「怪しいな、別に故障してないんですがね…」
何度も修理依頼を受けている店員は、迷惑顔で酒樽を見た。
「妙だな…。いつもこうなんだよ」
「私に言われても…」
「有難う。また、お願いします…」
酒樽は、この課内では快適な気温は無理だな…と侘しい気分で店員を送り出した。店員だって、買い替えてくれた方が助かります…くらいの侘しい気分である。しかし、そうとも言えず、スゴスゴと庁舎から去った。
エアコンは、少し悪戯が過ぎたか…と小嗤いしながら、真下に座る酒樽のデスクを見下ろしていた。^^
酒樽さん、不機嫌なエアコンの掃除も偶にはしてあげて下さい。侘しくならない快適な気温を提供してくれるのですから。^^
完




