-70- うっかりミス
老いると、うっかりミスをする回数が増える。医学的なことは分からないが、たぶん老化で身体の平衡感覚が鈍るせいなのだろう。私など、日々の、うっかりミスで往生している。^^
二人の老人が公園のベンチへ座り、会話している。
「やあ、来られてましたか…」
「どうされたんです? いつもなら私が来る20分以上前に来られてるんですが…」
「いやなに…。ちょっとした、うっかりミスで…」
「と、言いますと?」
「いつものコンビニで弁当を買ったんですがね。そこまではよかったんです。そのあとがいけないっ! ふと見上げると、遠くに枝ぶりのいい樹木が見えた訳です」
「はあ…」
「今日まで気づかなかったのが不思議といえば不思議なんですがね」
「はあ…」
「で、何げなしにブラブラとその木の方へ歩いて行きました」
「はあ…」
「ようやく、その木が植わっている豪邸の前まで来たんですがね」
「はあ…」
「すばらしい木だなぁ…と見惚れてました」
「はあ…」
「見終わって、ここへ来ようと、戻ろうとしました」
「はあ…」
「ところが、皆目、道が分からなくなりましてね。うっかりミスですな、ははは…」
「で、遅れられたと?」
「うっかりミスで道に迷ったんですな、ははは…。侘しい話ですが、まあ、そういうことです。今日は魚にしました…」
そう言いながら、遅れた老人は二人分のコンビニ弁当の入った袋から一つを取り出し、もう一人の老人に手渡した。二人は、交互に二人分のコンビニ弁当を買って公園へ昼前に集合する・・というパターンを定着させていたのである。
秋の紅葉が公園に映えている。秋晴れの清々しい昼過ぎ、二人はコンビニ弁当をパクついた。いつの間にか、うっかりミスで遅れた老人の侘しさは消え去っていた。
うっかりミスをしても、美味しいものを食べれば、侘しい気分は消え去るようです。^^
完




