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-7- 使えない

 使いたい物があるのに使えないときの気分は実に(わび)しい。別にその物が傷んでいるとか時間がないとかいう状況ではないのに、である。別の人が突然、現れ、「お使いにならないのなら使わせてもらっていいですか?」と問われ、「あっ! ああ、どうぞ…」などと空返事してサッ! と使われたときの心境は、どれほど侘しいことだろう。それは、使おうとしている人の心理に何らかのトラウマ的な問題があることを意味する。(あたか)もその心理は、釣り竿の針先に付けられたアンパンを食べようともがき苦しみ飛びついても、釣り竿を高くする意地悪な釣り竿の持ち手に似ている。釣竿を高くされてはアンパンを食べられない。実に侘しい話だ。^^

 寿(ことぶき)久雄は使えないネクタイを前にし、腕組みしながら侘しく悩んでいた。そのネクタイは亡くなった古希祝に愛妻から送られ、大事にしまっていたものだった。使おうと思えば何の問題もなく使えるネクタイだったが、使えないのである。記念として大事に仕舞っておこう…という心理と、仕舞っておくだけでいつ使うんだっ! という葛藤が寿の心の中で使えなくしていたのだ。ジィ~~っと腕組みしていても(らち)が明かず、時は刻々と過ぎていく。列車の時間は11:20だった。寿は決断出来ないまま、腕を見た。10:30だった。

『そろそろ出ないとな…』

 決断できないまま寿は妻から祝いにもらったネクタイの小箱を旅行カバンの奥に潜ませ、もう一本の別のネクタイを背広の外ポケットに入れたまま時間に追い立てられるようにノーネクタイで家を出た。

 列車には間に合ったが、列車の座席に座る寿の心境は複雑で、楽しいはずの旅が楽しくない侘しい心境であった。

 二日後、紅葉を愛でながら美味い料理に舌鼓を打ち、湯治を終えた寿は旅館を出て帰途に着いた。結局、妻から祝いにもらったネクタイは使えないまま旅行カバンの中で眠っていた。

 帰宅した寿は旅行カバンから妻にもらったネクタイの小箱を出し、溜息交じりに元の場所へ収納した。なんとも侘しい気分だった。

 お金もそうですが、いくら有っても、また大事に保管し過ぎて使えなくなった物は無用の長物です。皆さん、物は心持ちも含め、いつでも使える状態にしておきましょう。^^ 


                   完

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