-63- 理由
ふと、過去を思い出し、理由もなく侘しい気分になるときがある。外国風に言えばノスタルジィ~を感じるというやつだ。^^
どことなく物悲しく、急に冷えを増した秋風が楚々と吹いている。
「急に寒くなってきやがった…」
牛崎は誰に言うともなく、そう呟くと両手を交差して左の手首で右の上腕を、右の手首で左の上腕を擦りながら身を屈め、庭先から家の中へ退避した。
「あなた、夕飯よ…」
「ああ…、満潮は?」
「勤めで食べて帰るって…」
「ふぅ~~ん、あいつも大変だな…」
長男の満潮は内閣府のとある課長に昇格し、大忙しだった。
「灯はっ?」
「灯は外科医だから、病院にべったり…」
「…鍋香は?」
「あの子は東大の助手から講師になったばかりだから…」
「なったばかりだから、どうだって言うんだ」
「いろいろと、あるんでしょ…」
「いろいろとあるのか…。学者なんぞどうでもいいから、早く嫁に行って孫の顔を見せろっ!」
牛崎は不満げに侘しい溜め息を一つ吐きながらソファーに腰を下ろし、テレビのリモコンを押した。
「おっ! ドスコイだっ! 今年納めの九州場所だな…」
そう言いながら、今では夫婦二人の夕飯が増えた牛崎家は、平穏に侘しく暮れていくのだった。
理由なく侘しいかも知れませんが、牛崎さん、それでいいじゃありませんか、幸せなご家庭で…。^^
完




