-56- 雨が降る前
雨が降る前は何となく心が侘しいものだ。今にも降りそうなときにニコニコしていられる人は、相当の手練れか大物の類いに違いない。アメニモマケズ カゼニモマケズ… と自意識を持つでもなく、何が起ころうと風に柳と動じない人・・それがニコニコしていられる達人なのだろう。要するに天然系の人を指す。だから、天然系の人は雨が降る前に強い訳だ。^^ 私なんかは、すぐに動じる方で、まったくダメです。^^
とある中堅企業に勤める課長の西尾は、今にも雨が降り出しそうな空を眺めながら、さてどうしたものか…と侘しく考え倦ねていた。明日までに予定の仕事が出来るかどうか? と、心を痛めていたのである。雨が降れば、作業を中止せねばならなかった。西尾はそんな思いで、ともかく家を出て勤務地へ向かった。
ビルの社屋内である。
「どうします? 課長」
課長補佐の東雲が心配げに西尾を窺った。
「天気予報はどうだって?」
「曇り、ところにより俄か雨か小雨だそうです」
「はっきりしない予報だな…」
「はい…」
「分かった、次長に伺ってみよう」
そう言い残すと、西尾は次長席へ向かった。
「どうします? 次長」
課長の西尾が心配げに次長の黄昏を窺った。
「天気予報はどうだって?」
「曇り、ところにより俄か雨か小雨だそうです」
「はっきりしない予報だな…」
「はい…」
「分かった、部長に伺ってみよう」
そう言い残すと、黄昏は部長室へ向かった。
「どうします? 部長」
次長の黄昏が心配げに部長の曙を窺った。
「天気予報はどうだって?」
「曇り、ところにより俄か雨か小雨だそうです」
「はっきりしない予報だな…」
「はい…」
「分かった、専務に伺ってみよう」
そう言い残すと、曙は専務の風花がいる専務室へ向かった。
・
・
・
そうこうして、社長の夜霧が決断したとき、すでに昼前の十一時を回っていた。その日、雨は結局降らず、作業は日延べとなり侘しく暮れていったのである。
物事をなすには、侘しい思いに至らない迅速な決断力が必要なようです。^^
完




