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-29- 手間
早く完成させようと手間を惜しんだばかりに全てがダメになり侘しい思いをすることになる。急がば回れ・・というくらいで、気が苛立つときほど手間をかけた方が、結果として完成度が高く上手く仕上がるのである。
洋画家として名を馳せる黒墨は、自宅のアトリエで一枚の油絵を描いていた。ほぼ完成はしているのだが、どうも納得出来ない黒墨は、アアでもないコウでもないと絵の前で絵具を塗りたくっていた。
「先生、お電話です…」
声をかけたのは、二番弟子の伊香尾だった。
「… なんだ、今頃…」
不機嫌な声で作業の手を止め、黒墨はアトリエから居間の方へ出ていった。あとに残された伊香はふと、侘しく思った。
「この絵が\1,500,000とはねぇ~。どう見ても\300,000がいいとこだろ…」
手を抜いても手間をかけても、すでにその絵は\1,500,000で売れることが確定していたのである。
手間に関係した、とある侘しいお話でした。^^
完




