-26- 虫の音(ね)
秋ともなれば、それまで聞こえなかった虫の音が侘しい気分を増幅させる。この侘しさは他の季節では味わえない感覚だ。虫がムシムシ! と騒いでいるのかどうか? は定かではない。^^ たぶんメスを、あんなことやこんなことをして子孫を増やそうと、いい音色で誘っているのではないか…と、下世話ながら、そう思える。^^
とある夕方、箕輪は古びた安アパート内の三畳間の一室で虫の音を聴くでなく聞いていた。部屋の前の窓外がコンクリートでなく、草が生えていたこともある。しばらくすると、箕輪はその音色を聞くにつけ、ふと、侘しい気分に襲われた。
『まあ、ゴキブリは鳴かんからなぁ…』
箕輪は慰めともつかない正論を思った。そして、しばらく聞いていた箕輪は知らず知らず本格的に聴き始め、耳を欹て始めた。
♪リリリ~ン、チロチロ、チロロ、リリリ~ン…♪
『なかなかいい音色だ…』
箕輪にはコオロギの音が名演奏に聴こえ出したのである。何を隠そう、実はこのコオロギこそ、とある短編集にも登場した、とある有名な作曲家があの世からギターで奏でる音をワイヤレスで送るスピーカーだったのである。演奏曲は、皆さんご存じ、巷で大ヒットした♪こおろぎ夜曲♪だった。^^ ただ、箕輪には侘しいコオロギの音色にしか聴こえなかったのだが…。
人の世には計り知れない多くの不思議な現象があるようです。^^
完




