-16- 落選
過去の当選八回の実績からか、当選は間違いない…と本人も思っていた九回目の国政選挙で落選した多野倉は、さて、どうインタビューに答えていいいものか…と思い悩んでいた。
「先生っ! そろそろ会見が始まりますが…」
「おっ、そうか…。それじゃ行くとするかっ!」
控室の椅子にドッシリ構えていた和服に袴姿の多野倉は、ヨイショ! と重い腰を上げた。侘しい気分は億尾にも出さず、笑顔で会見に臨もう…と決意し、多野倉はマイクロフォンが壇上に並ぶ記者会見室に入った。
「先生、今回の結果について…」
進行役の局アナウンサーも心なしか声が低かった。
「ははは…私も、年ですかな。世間のご判断です。そろそろ引き際かも知れませんなっ!」
笑顔で質問に答える多野倉の内心は、侘しさに打ち震え、すでにぅぅぅ…と嗚咽の声を上げていた。だが、外見からはその様子は見えず、さすがに大物代議士だけのことはある…と誰しも思えた。
「ということは、次回の国政選挙には出馬されないと受け取ってよろしいんでしょうか!?」
「ははは…まあ、そういうことになりますかな」
多野倉は遠まわしで肯定した。
そして月日が巡り、また十回目の選挙が始まった。引退表明した多野倉だったが、また出馬したのである。結果は惨めで、またしても落選した。そして、とうとう笑顔で引退したのである。ただ、その笑顔の両眼からは大粒の涙が頬を伝っていた。
落選した侘しい思いは誤魔化せません。私としては、ご苦労様でしたと言うしかありません。^^
完




