-12- 出番
財布の中身のお話である。^^ 同じ¥13,000でも千円札13枚と一万円札一枚と千円札三枚では持っている気分が変わるようだ。ちっとも変わらんっ! とお思いの方も大勢いらっしゃるかとは思うが、枚数が異なるだけで実は目に見えない差が生じるのである。
財布の中の貨幣が話をしている。
『これだけ仲間がいりゃ、なんとなく心太いな』
『…心太い? なるほど、心細いの逆って訳ですな』
『ははは…まあ、そういうことだな』
『君達、何をゴチャゴチャ話してる。ご主人が何か買われたっ! 休んでる暇はないっ! さあ、俺達の出番だぞっ!』
スーパーで買い物をするこの財布の持ち主がチキンラーメンの五袋入りを一つ買い、レジへと向かった。
「¥517です。三番レジへお願いします」
レジ店員にそう言われ、ご主人はセルフ支払いの三番レジへと向かった。 このとき、財布の中ではひと騒動が湧き起こっていた。
『さて、俺の出番か…』
『いやいや、それはないっ! 俺だろっ!』
『そうじやないっ! 僕だっ!』
『なに言ってるのっ! 私よっ!』
同じ顔の千円札同士が揉めに揉めていた。そうとは知らず、ご主人は財布から一番よく使い古された千円札を選んで投入口へ入れた。新札を出来るだけ残しておこう…という心理が働いたためである。
『12枚になっちまった…』
千円札13枚-千円札1枚=千円札12枚というご主人の発想である。侘しい顔でお釣りの硬貨を財布へ収納し、買ったチキンラーメンの五袋入りを買い物袋へ入れると店から去った。財布の中では残った12枚の千円札がまた、ゴチャゴチャと話し始めた。
『やはり、違いますなぁ~、使い古された功ですかな…』
『さよですな…』
人がよく使う[年の功]という意味らしい。財布の中に残された十二枚の千円札は侘しい気分で沈黙した。
お金は使われてこそのお金で、お役に立つ出番を待っているのです。^^
完




