誕生日なんだから苺ショートを用意して!
「そういえば、明日は私の誕生日。なんだか苺ショートケーキが食べたいわ。お姉ちゃん、どう思う?」
どう思う?・・どう思うかと言えば、私は全く妹の誕生日に苺ショートを食べることはうれしくもなんともなく、できればそれがティラミスだったらまだ良いなあと思う程度なのだが、決して間違えてはいけない。
ここでの「どう思う?」とは、「私は苺ショートを食べることに決めた。ついては、どこか良い店で買ってこい。何故なら私はのんきなあなたと違って仕事で社会奉仕しているのだから。おまけに疲労困憊しているのだから」と言うことなのは分かり切ったことだった。
「そうねえ。苺ショートは良いねえ。でも今年は気分を変えてティラミスってことにはしないよね。もちろん」
思わず口にしてしまった、こういった些細な抵抗は、あとあと大きな禍根を残すこと間違いないのだ。が、今日は私に緊張感が欠けていた。
いけない口が滑った、と思ったが後のまつり。
「お姉ちゃんは、私の誕生日だということが分かっているの?わたしの、誕生日なのよ。
他に誰も祝ってくれる人がいないのに、お姉ちゃんはここでも自分のわがままを押し付けようって言うの?」
妹は憤慨を通り越して、不意に絶望感に襲われたかのように弱弱しい声を出した。
私はあわてる。
妹が倒れて、生きていけないのは私の方なのだ。
妹には会社の福利厚生がつく。
だけど私には。
「違う。違う。
もちろん、苺ショートの方が誕生日に相応しいと思う。
昨日ちょっとだけ何かでティラミスの写真見てしまったから、思い出しただけ。
全然苺ショートの方が、断然私もいいと思う」
「そうよね。誕生日には苺ショートよね。
私はあのふわっとした白いクリームの中にみずみずしい大きな苺がキラキラと宝石のように幾つも並んでいるのを見るのが好き。
とくにすきっと綺麗にカットされた苺を横から見るのがたまらない思いなのよ。
口に入れてからだって、クリームの甘さの中に、冷たくちょっと意地悪な酸味が広がるのを覚えると、ああ今年もこのように甘酸っぱい一年だったなあという気になるの。
何よりスポンジの軽やかさ、儚さが、なんだか夢のような私の人生そのもののように思えるのよ。
そういえば恵比寿にル・ヴァンと言う店が出来たんですって。苺ショートならここ!って。会社の人に教えてもらった」
「恵比寿~?ここから一時間半もかかるよ。いやでも誕生日だからね。良いんじゃないかな。たまには」