第12話 平等じゃない!
手元に30000ポイント弱ある。
どうしよう? 買うべきか、買わないべきか?
8年C組の上野里見は、構内にあるポイントショップの前で悩んでいた。
さっきから『魔力探知機』(30%オフ。税込29800ポイント、現品限り!)の前を、行ったり来たりしている。
30000ポイントは、里見が8年間の魔法少女活動で手に入れた、なけなしの貯金だった。
世田谷魔法学校では、一年に一度、貯めたポイントがリセットされる。
一年間の累計ポイント数で順位が決まる。卒業できなかったら、小学生も大学生も、また横並びゼロからの再スタートだ。獲得数に応じて1ヶ月ごとにクラス替えもある。だからとびきり優秀な小学生は大学院に通っているし、不真面目な大学生が「小学校からやり直し」になったりもする。
ついでながら紹介しておくと、
Sクラスが上位10名。
Aクラスは上位30名。
Bクラス…上位100名。
Cクラス…101〜300位。(並みの魔法少女、と言えばこのクラス)
Dクラス…301〜1000位。
Eクラス…1001〜10000位。
Fクラス…10000以下。
卒業できるのは、毎年上位5名。
となっている。
クラス替えは1ヶ月ごとに集計だから、例えば4月にたくさんポイントを稼いで上のクラスに這い上がったとしても、5月に調子を落とせばあっという間に叩き落される。
ではリセットされた去年のポイントはどうするのかというと、それらは構内のアイテムショップなどで交換が可能だった。生徒御用達のショップでは、高級杖、箒、魔道書など、通常では手に入らないようなレア・マジックアイテムが売られている。
話を戻そう。
アイテムショップで『魔力探知機』が、久しぶりにセールをやっていた。人気があり、数も少なく、中々値段の下がらない商品だ。これがあれば、相手の魔力がどれくらいか、強いのか弱いのかがひと目で分かる。先ほどから里見が迷っていたのがコレだった。
強力なアイテムさえあれば……。
このままグダグダとCクラスに留まっていても先はない。里見にだってそれは痛いほど分かっている。上位に行くためには、もっと効率よくポイントを稼ぐ……自分より弱い魔法少女を狙って、『決闘』する……のが一番だ。
『決闘』。
この世田谷魔法学校では喧嘩はご法度ではなく、むしろ先生が「積極的にやれ」と生徒に勧めている。お互いのポイントをかけての真剣勝負は、学内で頻繁に起き、大いに盛り上がる人気行事でもあった。観衆が投げ銭し、手持ちのポイント以上に賭け金が跳ね上がるのもしょっちゅうだ。
里見はもう一度ウインドウの中を覗き込んだ。分厚いメガネのような『探知機』が、ガラスケースの一番上に重々しく座している。『魔力探知機』があれば、敵を選べる。勝てる相手とだけ戦って、勝てない相手からは逃げれば良い。カツアゲみたいで何だか後ろめたいが、背に腹は変えられない。
里見は内心焦っていた。この学校に入学して、もう8年になる。
小学生の頃はまだ純粋に夢を見ていられたが、この歳になると、流石に彼女も分かってきた。
結局魔法少女は、生まれついた『血統』が全て。
親ガチャ。家柄。血筋。人の運命は生まれた時点で決まっている。
持っている奴は最初から持って生まれてくるのだ。
そしてハズレくじを引いた奴には、神様は何にも与えてくれない。
だって本当のことなんだもん。
『魔法探知機』だって、魔法の杖だって魔導書だって、由緒正しい魔法使いの家には当たり前のように転がってるのに!
だけど自分のような凡人魔法少女は、まず必死にポイントを貯めて、高価な道具を買い揃えるところから始めなきゃいけない。こんなのおかしいじゃない。人生って本当、理不尽! スタート地点からしてこうも違うだなんて。
人生は平等じゃない。容姿も。才能も。家柄も。生まれつきが全部。『血統』が全て。『何何家』とか、『何何一族』とか、主役になるのはそんなのばっかり!
残念ながら、有能な一家でも有名な一族でも無かった、平凡な里見は絶望した。
毎年横並びのスタートというのも、一見平等なようで、里見のような持っていない奴には圧倒的に不利だった。毎年魔力10万とか100万とか、一部突出した持ってる奴と混じって戦わなくてはならない。一般的な魔法少女の魔力が1000〜10000そこそこである。まさにウサギとカメ、いや、F1レースに軽自動車で参加するようなものだった。
それに彼女が1年かけて必死に習得した詠唱を、サラブレッドたちは3日でモノにする。後から来た新人に一瞬で追いつかれ追い越されていく憂き目に、今まで何度あったことか。これでやる気を出せと言う方が酷ではないか。
ここ数年、里見はC〜Dクラスを行き来して、成績も下降しがちだった。
この学校の平均在籍年数は9年だという。大半は夢を諦めて失意のうちに辞めていく。
「すいません、これください」
ため息をぐっと飲み込んで、何かに突き動かされるように、里見は声を張り上げた。ここが岐路だと思った。うだつの上がらないまま終わるのか、もう一度夢に向かって手を伸ばすのか。
軽く興奮状態になりながら、数分後、彼女は『魔法探知機』を手にショップを後にした。
買っちゃった……。
久しぶりに胸がドキドキした。高い買い物だったが、これさえあれば、きっと私も魔法少女になれる。強力なアイテムさえあれば。そうよ。私が上に行けないのは、持ってなかっただけ。恵まれた環境やちゃんとした道具がなかっただけなんだから。
でもこれで、
これでやっと、私も持ってる奴になれたんだ。今日からやっと、周りのエリート連中と同じ土俵に立てる。
部屋に戻ると、急いで包装紙を破り、彼女は震える手で『探知機』を装着した。機械の重みがズンと頭にクる。すごい。不恰好だったが、掛けただけで、なんだか自分がすごく強くなったような気がした。高揚感に包まれながら、早速獲物を探して、里見は部屋を飛び出した。
それから数時間後。
見つけた。木陰に身を潜め、里見は弾む胸を押さえ獲物の様子を探っていた。
自分より低ランクで、それでいて所持ポイントがやたらに高い奴。そんな都合の良いカモがいるはずもない……と半ば諦めかけていた頃に、目的の人物はようやく現れた。
佐々木小夜子。『魔力探知機』のおかげで、プロフィールや得意魔法など、本人すら知らない情報が筒抜けだ。1年F組の新入生で、魔力はなんとゼロ! それが一体どんな手違いがあったのか、入学から1ヶ月も経たずして、何故か数万ポイントを所持している。
やっぱり買ってよかった!
神様は、嗚呼、ちゃんと私を見ていてくれたんだわ!
里見は胸躍らせた。自分より持ってない奴。ちょっと可哀想だけど、あの子に痛い目に遭ってもらおう。今がチャンスだ。他の魔法少女に目をつけられる前に、さっさとポイントを巻き上げなくては。
里見は木陰から飛び出し、精一杯声を張り上げた。




