お引越し中
つづきはwebで……。
よしだぶんぺい
だしぬけに、背後から肩を叩かれた。
も、もうダメ……ほとんど、ぼくは腰を抜かさんばかり。
「よ! カツユキ」
肩がピクン、思わず心臓がドキッ。
…………。
それは、ほんの一瞬のことだったかもしれない。でもぼくには、ずいぶんと長い時間に感じられた。
ややあって、ぼくはハッとわれに返る。
な、なんだ、イサムかあ。
緊張の糸が、ふっとゆるむ。ぼくは、ほっと胸をなでおろし、おもむろに振り返る。
「おどかすなよ、びっくりするじゃないか」
「へへ、わりいわりい。でも理科室に入る前から、こんなにビビってちゃ、勝負にならねえな」
「な、なに言ってんだ。こんな状況で、いきなり肩たたかれたら、だれだってびっくりするよ」
そう言って、ぼくはふてくされたように、両の頬をぷくりとふくらませる。
もう勝負なんてどうでもいいや。
そんな、半ば捨て鉢な気持ちになって……。
「それはさておき、よく逃げずにきたな、カツユキ」
低い声でささやくように、イサムが言う。
「だ、だって、しょうがないじゃん……」
あんなふうに脅されたら、ということば、途中で挫折した。
思わず洩れてくる、情けなさそうな息にさえぎられて。
「なんだよ、おまえ。さっきからつべこべうるさいなあ。そこまで言い切るなら、たしかめに行こうぜ。おまえの言ってることが正しいかどうか」
「え、どこに?」
「うちの学校の理科室にさ。そこに、でるらしいって噂だからな」
「い、今から?」
ぼくは、露骨に、嫌な顔をする。
「なに、馬鹿なこと言ってんだ。夜だよ、夜にきまってんだろう。それもさ、もっとも幽霊がでやすいとされる、丑三つ時にな」
はあ、丑三つ時に、学校の理科室?
そっちこそ、バカ言ってんじゃないよ、とぼくは一笑に付して、学校に向かって歩きだそうとした。だが――。
「あっそ」
イサムはそう言うと、さもいじわるそうにニヤリ笑って、こうつづけた。
「なら、あれ、おまえの姉ちゃんにバラシちゃおうかなあ」
あれ――実はそれ、ぼくが拾った十円をうっかりネコババして、「うまい棒」を買って食べたという、あの案件。
絶対に、国民に、もとい、姉ちゃんにバレてはいけないという、あの国家的機密事項案件。