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朱の狂剣  作者: カントク
英雄復活
32/70

英雄復活 2 暗転

「我が(あるじ)よ!」



司祭は頭上に大きく両腕を広げ、天に向かって叫んだ。


しかし、銀狼将軍の周りにも、司祭が見上げる空にも、何も変化は起きなかった。

しばしの沈黙をおいて、再び司祭が叫んだ。



「我が(あるじ)よー!!」



・・・やはり、何も変化は無い。



クククッ・・・。

ぷっふふ・・・。



貴族の群衆から、押し殺していた笑いが漏れ出した。

何人かの近衛兵も、必死に笑いを堪えながら肩を揺らしている。

後方に身を隠していたアレンはその様子を見てニヤリと笑うと、嘲笑混じりに批判を始める。その矛先は、まず司祭に向けられた。


「むははっ、馬っ鹿らしい!召魂の呪儀だと?何も起きないではないか、このペテン師めっ!」


当の司祭はアレンの言動など全く眼中に無いらしく、まるで天から降って来る何かを待つように両腕を広げている。見事に無視されたアレンの姿を見て、貴族の数人が失笑した。さすがに腹を立てたアレンは、さらに感情的に司祭を捲し立てる。


「もういいっ、茶番は終わりだ! 全くもって、くだらん・・・。」


アレンはこれ見よがしに大きな溜め息をつき、今度は無礼にもフィレリアを指差して糾弾を開始した。

後方からそれを見ていたネイサンの目に怒気が宿った。左の腰に下がる剣に、そっと右手をかける。



「これまでは王のお考えを尊重してお付き合い申し上げたが、ここに至るはあまりに酷い有様。斯様(かやう)な怪しい儀式で我々貴族をはじめ国民を惑わせた責任を・・・。」


アレンの糾弾がトーンダウンし、止まった。

『惑わせた』と言い放ったあたりから、周囲の異変に気付いたのだ。


前方に立つ何人かの貴族が、目をこすっては瞬きを繰り返している。

気のせいだろうか? 庭園の景色が少し暗くなったような・・・。


(いや、気のせいではない。)


アレンの演説を聞きながらも、ネイサンの目は暗転する世界をしかと目撃していた。困惑する貴族を左右に振り向き、続いて恐るおそる空を仰いでみる。すると、彼の顔からは愛嬌のある微笑が消え、細めていた瞳が大きく開かれた。

ゴクリ・・・。乾いた口の中から苦い息を飲み下ろしたネイサンの額に汗が浮かぶ。


「おやおや、エーテ殿の天気予報はアテになりませんねえ・・・。」


ネイサンの周りの貴族たち、続いて医術者や近衛兵までもが頭上を見上げた。

四角く開いた吹き抜けから見える藍色の夜空が、まるで黒のインクが零れ混ざったようにジワリと闇色に濁り始めている・・・。



「おお、空が黒く・・・。」

「まさか、司祭の・・・、呪儀の力なのか?」

「ははっ、偶然に決まってる!」



黒く変貌する夜空を見上げる貴族たちの間に、ザワザワと動揺の波が広がった。


「これ、嫌な予感しかしないよなぁ。」


ネイサンはどよめく貴族たちを掻き分け前に進み出て、手術台の上で四方から管に繋がれたまま眠る銀狼将軍を眺め苦笑した。




その時!


庭園を囲む回廊の奥の方から何やらドタバタと騒々しい音が聞こえ始めた。ドタバタは、次第に大きくなりこちらに迫って来るようだ・・・。


「うひいぃぃぃ!」

「今度は、なんだ!?」


夜空の急な暗転という不吉な現象に怯えていた貴族は、身近な者と抱き合い震えあがった。アレンは肩にしがみつくキャンベルを突き放そうと必死に肘を振っている。


そんな貴族連中を一瞥し、エーテはフィレリアを背後に庇って音のする方へ向き直り、身を構えた。

姿勢はそのまま、目だけでネイサンの姿を探すと、彼も同様に音の方へ身構え、その交差した両手は腰の2本の剣を掴んでいる。



ドドドドッ、ズドドドドド・・・。



「ちょちょ、ちょ、ちょっと! 待てってばあ!」


ドタバタの騒音を追い、聞き覚えのある声が叫んだ。

と同時に、体格の良い牛の群れが庭園を囲う回廊に姿を現し、運動会のトラック競技よろしくグルグルと周回を始める。爆走する牛の群れの後ろを、後塵にまみれて小柄な影が必死に追って走っているのが見えた。あのブロンドのボブカットは、もしや・・・。


「ごめんなさい、エーテさん! ボクにはやっぱり無理だったみたいですぅ・・。 こっ、こいつらを捕まえてー!」


回廊から庭園に雪崩れ込んでくる牛の後ろで叫ぶのは、そう、クゥだった。

緊張に震えていた貴族たちは、クゥと牛が繰り広げる滑稽な運動会に目を丸くして脱力してしまった。しかしこの一瞬でも皆の和らげたクゥは、なかなかの功労者ピエロとも言えるが・・・。


「ああ、まったく・・・。」


エーテは汗でグシャグシャになって走るクゥの姿に苦笑しつつ、構えた体をまっすぐ立て直し、胸の前で勢いよく両掌を合わせた。


 パァンッ!


重なったエーテの両手から破裂音が響き、空気の波紋が円状に広がる。

庭園に雪崩れ込んだ牛の群れを波紋が通過すると、牛は落ち着きを取り戻しその場で静かに停止した。

エーテはすたすたと歩み寄り、先頭の一頭を引いて10頭全ての牛を柵の中に誘導する。そして、何事も無かったかのように、フィレリアの横に戻ってしまった。


「うう、ボクの苦労は、なんだったんですか・・・。」


呆気にとられていた貴族から送られる憐れみの視線も気にせず、クゥは疲労と落胆でパタリとその場に仰向けで倒れてしまった。



ともあれ、供物の牛が庭園に入ったことにより、召魂の呪儀の準備が整った事になる。

牛が落ち着いたところで、参加者の目は自然と祭壇の方に向けられた。おそらく、牛の騒動の最中も司祭の呪儀は続いていたのだろう。司祭の両腕は、変わらず上空に掲げられていた。



「我が(あるじ)よ! ここに眠る器たる肉体に、魂を戻し賜え!」



天に向かって祈るひときわ大きな叫びで、多くの者が司祭の視線の先、黒い空を再び見上げた。

ただ一人、フィレリアだけは銀狼将軍に目を戻す。


上空では、空から吐き出される墨のような雲が、夜空に若干散らばっていた星の瞬きをまるで生きているように次々に飲み込んでいた。やがて空は完全に光を失い、回廊の柱に掛けられた松明の灯りだけが、現場を朱色に照らしている。夜の暗さとは違う、重たい闇。暗転した庭園は、再び不吉な雰囲気に支配された。不安に駆られ、参加者の間でヒソヒソと小声の会話が散発している。



(あるじ)よ、偉大なるお力を示し賜え!」



司祭の絶叫が、一瞬の静寂を生み出した。

直後、その静寂の底を揺するように、供物の牛が、一頭、また一頭と嘶きを連鎖させる。


ム”オォォォォ、ムヴオオオゥ・・・


その啼き声は、牛ではない・・・、牛の姿をした悪魔の呻き声のように禍々しく聞こえた。


「おおぉい、牛って、こんな啼き方だったか?」

「なんなんだ、これは!?」

「フィレリア様、これは想定の範囲なのですかっ!?」

「ひいぃ、もう、止めよう、止めてくれ・・・。」

「こんな怪しい儀式に付き合っていられるか! 私は帰らせて頂く!」


牛の異状に震えあがった貴族たちは、遂に理性を失い混乱に陥った。大声で騒ぎ出す者、耳を塞ぎその場で震えあがる者、身を翻して立ち去ろうとする者・・・。



まさに、その時。



騒然となった庭園を見下ろす真っ黒な四角い吹き抜けが、激しい閃光を放ったのだ!

現場の光景は、強烈なフラッシュが生んだ白い世界に飲み込まれてゆく。瞬きが間に合わなかった多くの者の目が視界を失い、バタバタと地面に倒れて込んでしまった。


僅かにも目を開く事が出来たのは、フィレリア、エーテ、ネイサンをはじめとする数名。

しかし、その数名は確かに見たのだ。



手術台に横になる銀狼将軍の胸に突き刺さる、巨大な赤黒い稲妻を!



(これは、もしや!?)


エーテは回復しない白い視界の中、手探りで銀狼将軍に掛け寄った。

はだけた腹、胸、続いて全身を、触診しながら確かめる。



ひとまず、焼け焦げた痕も外傷も無いようだったが・・・。


エーテが期待していた、蘇生(キセキ)も、起きていなかった。



エーテは、心に芽生えた僅かな絶望を振り払うように左右に頭を振った。

そして気付く。・・・音が、地鳴りが、消えている。

グルリと辺りを見渡してみると、静かなわけだ・・・、脈動呼吸器が停止しているのだ。あの稲妻が原因だったのだろうか? 再び銀狼に視線を落とすと、口に挿入されていた臓物のような管が、無い・・・。 口から抜け落ちた管は、プールの底に沈みユラユラと影を揺らしていた。


「何てことだ、蘇生の(かなめ)の装置が!」


エーテは温水の底で揺れる管を引っ掴み、慌てて引き揚げた。

しかし、再び挿管しようにも誰一人医術者が立ち上がっておらず、オロオロするばかりで何も出来ない。見よう見まねで挿管したとしても、装置も故障しているじゃないか・・・。


「クソッ!!!」


(慌てるな、何か、何か出来るはずだ。)


エーテは諦めずに周りを見渡した。

薬液の注入器は壊れていないようだ。

両掌を重ねて、銀狼将軍の冷たい胸を繰り返し押してみる。

無駄かもしれない、だがそれでも・・・。


マッサージを続けながら、エーテは薬液注入器の釜の脇に立つジェスに目を向けた。

だが、(ぶす)師のジェスに、いったい何が出来る?



「ジェスッ! 調剤した刺激薬を添加してくれ!」



叫んだのは、ネイサンだった。


ジェスはネイサンに向かって大きく2回頷き、たくさんの薬剤が収められた四角い大きなバッグから紫の薬液が入った瓶を取り出した。


エーテは疑いの視線をネイサンに向け突き刺した。

ネイサンは『任せろ』と言わんばかりに自分の胸をグーで叩き、怖い顔をしているエーテに向かってウインクをして見せた。


(ここは、レスター卿を信じるしかない。)


エーテは目の前の銀狼将軍に視線を戻し、再び心臓マッサージを開始した。


ジェスが刺激薬を添加している最中、強烈に背中に突き刺さっていた視線がある。

恐らくアレンのものだろう。ジェスはほんの少しだけ頭を動かして振り返り、小さく1回頷いて見せた。それを見たキャンベルがアレンに耳打ちをする。


「レスターの奴、見事なまでに自ら墓穴を掘りましたね。」

「我々の役目が奪われてしまうとなぁ。これは愉快痛快。」


毒を混入していると信じて止まない二人は、ジェスの動きを興奮に血走る目で追った。


ジェスは慎重に瓶のコルク栓を抜き、トポトポトポ・・・、それぞれの釜に紫色の刺激薬を投入した。

銀狼将軍につながるチューブの色が、赤から黒に、白から赤に変化してゆく。その様子をうっとりと眺めるキャンベルがアレンに囁いた。


「これで、ジ・エンドです。しかし・・・、今回はいろいろと肝を冷やされましたな。」

「ああ、不可思議な現象が続いたからなぁ。さすがの私も不安を覚えたわ。しかしな、奇跡なぞ、あるものか。あの奇妙な現象は、はフィレリアが仕組んだまやかしに違いない。」

「やはり、まやかしでしたか。ああ、危ない、危ない・・・。」


キャンベルの応答があやふやになってきた。虚ろな表情から察するに、ラムキャンディの薬効が切れ始めたのだろう。アレンはポケットから取り出したラムキャンディの欠片を、だらしなく開いているキャンベルの口の中に放り込んだ。そして注入器の傍で薬液の瓶を整理するジェスを見ながら、感慨深く呟く。


「しかし、まさかこんなにタイミング良くジェス・ウッドの出番が来るとはな。」

「まさに、それこそが・・・、奇跡と呼ぶに、相応(ふさわ)しいでしょ、う・・・。」


そう言って膝から崩れ落ちたキャンベルは、床に倒れたまま眠ってしまった。


「どこまでも使えん奴だ。(あるじ)様とやらの生贄にでもしてしまおうかの。」


アレンはニヤリと笑って司祭を睨み、足元に寝ているキャンベルを蹴転がした。


「ともあれ、ジェスの(どく)は注入されたのだ。んふふふ・・・。これで銀狼の復活は完全に無くなったなぁ。」


沈黙して見守る貴族の群れの後方で、ついアレンは嬉々とした声を漏らしてしまった。慌てて口を塞いぐも時すでに遅し。その様子は、微笑を湛えたネイサンの目がしっかりと捉えていた。


(無くなったのは、あなたの未来ですよ? アレン副議長。)



そう、とっくにネイサンに抱え込まれていたジェスが投入したのは、もちろんアレンの仕掛けた毒ではなく、正真正銘の刺激薬なのだ。蘇生の補助にはなっても、命を奪うことなど無い。



(早く終わりにしてくれ!) ・・・アレンは銀狼の死を。


(どうか、目覚めてくれ!) ・・・ネイサンは復活を。



それぞれの願いを乗せた視線の中、エーテの懸命の心臓マッサージは続く。


エーテの姿を見て、失意のまま座り込んでいた4名の外科医が立ち上がった。互いに顔を見合わせ、再び腕の接合に取り掛かる。それを見たリーダーもまた、ザバリとプールから立ち上がって手術台に向かった。


「エーテさん、代わりましょう。」


汗して取り組んでいたエーテの肩へ手を置き、リーダーは交代を申し出た。

それから、医術者による懸命の施術が続いた。



しばし時は流れ・・・。


ネイサンの願いも虚しく、事態はアレンの望んだ悪い結末へと向かい始める。




まず最初に、薬液の残量が尽き注入が途絶えた。

注入器の方を睨むと、ジェスが空になった薬剤ケースを頭上に掲げて見せてから投げ飛ばし、お手上げのポーズをして見せた。


次に、腕の接合に掛かっていた4名の外科医が次々にプールの底に座り込んだ。

薬液の注入が無くなった事により筋が萎縮し、接合が出来る状態ではなくなってしまったのだ。


最後に・・・

それを見た医術者のリーダーが、手応えの変わらない心臓マッサージを止めた。

ふうぅぅ・・・、と長く深い溜め息をつき、小さく震えながら俯く。



「残念ですが、これ以上は、もう・・・。」




銀狼将軍の胸に両掌を乗せたまま、リーダーは力無く蘇生の終わりを宣告した。


そう言って目を閉じたリーダーの耳に、バシャバシャと水を掻き分ける音が聞こえる。猛烈な勢いで近付いてくる音が至近で止まると、脇から現れた小さな影がリーダーの体を銀狼将軍の横から押し除けた。

驚いて目を開いてみると、影の主はフィレリアだった。ハァハァと息を切らせて下からリーダーを睨んでいる。



フィレリアは荒い息を飲み込み、ギュッと唇を結んだ。まるで親の敵でも見るような目で、今度は銀狼の顔を睨みつけている。

下ろした両腕の先の拳がブルブルと震えていた。



「なぜ、助けてくれないのだ・・・。」



フィレリアの目に、涙が浮かんだ。

王となり、ここまでずっと堪えてきた涙が、堰を切ったように溢れ出した。



「共に生きようと・・・、言ったではないか!!!」



フィレリアは震える両の拳を頭上に持ち上げ、銀狼将軍の傷だらけの胸にドンと落とした。

溢れ出る涙が飛び散り、松明の朱色を含んで輝く小さな珠となって、はらはらと銀狼の体に降り注ぐ。



目の前で慟哭する幼い王の姿を目の当たりにし、医術者も、フィレリアを憎んでいた貴族さえも、込み上げる感情につい目を逸らした。敵も味方も無い、人間が生理的に等しく持つ憐憫の思いが、彼女の姿を正視することを躊躇(ためら)わせたのだ。


静寂の中で、スパナを片手に装置を修理するフレディだけが忙しなく動いている。


(アイツ、まだ諦めていないのか。)


遠い目で彼を見た医術者のリーダーは、今度は恨めしそうな目で今も動かない銀狼将軍の身体に目を遣った。



「これは・・・。」



リーダーの動きが一瞬止まり、震える手で眼鏡を押し上げる。

青白かった肌が、ほんの僅かだが色を戻している・・・。


リーダーの様子に気付いた貴族たちは、その視線の先の銀狼将軍を注視した。

肌の色に生気が宿り、僅かではあったが・・・自発呼吸により胸が動いているように見える。


「ばっ、バカなっ!?」


貴族の群れを掻き分けて前に飛び出したアレンが叫んだ。


「そ、そんな、有り得ん・・・。」


蘇生の兆候を自分の目で確認したアレンの額は青褪め、冷汗が浮かんでいる。

勢いよく振り返ったアレンが、血走った目を剥き貴族の群れに向かって喚いた。


「皆さん。これは夢です、幻惑です! ほら、きっとあの怪しげな司祭の妖術でしょう。 500年間凍っていた人間が生き返るなど、はははっ、我々はみな騙されているんですッ! ・・・!?」


グァンッ!


身振り手振りで喚き散らすアレンの後頭部を、飛来した何かが直撃した。

目的を射ちバサリと落ちたのは、フィレリアが司祭に渡すも用無しと一蹴された大麻(おおぬさ)だった。

もちろん、投げたのはその司祭に他ならない。



「騒々しい人ですね。 迷惑です。」


司祭は憮然とした表情でアレンを睨んだ。

錯乱状態に近いアレンも黙っていない。


「黙れペテン師! 迷惑なのはこっちだ。 直ちにその怪しい呪儀を止めろ!」



鬼気迫るアレンの恫喝を聞いた司祭は、たじろぐどころか、その逆に不敵な笑いを浮かべている。

司祭は顎を人差し指で押し上げ、アレンを見下すように目尻で睨んだ。



「残念でした。呪儀はもう始まってるんです。私にも、もちろんアナタにも止める事は出来ませんよ。」



ビュゴオォォォォォ!!!


司祭の言葉と共に、上空から強烈な風が吹き込んだ。



「ほぉら、(あるじ)様も、やっとお見えになったのですからぁ♡」



司祭は頭上に広げていた両手をビンと伸ばし、一層高く掲げた。

アレンに続き、貴族、医術者、近衛兵・・・、その場にいた全員が、司祭の腕の指す天を見上げる。



ついさっきまでただ闇であった夜空が変わらず見える筈だった。

そうではない事を本能で予感しつつも、誰もがそう願っていた。



しかし・・・。



見開いた全員の目に映し出されたのは、闇の中から渦を巻いて噴き出す血のような赤の雲によって禍々しい赤黒に混濁する、そう、まるで地獄とも錯覚するような光景であった。



残念ながら錯覚は現実と成り代わり

この場に居合わせたすべての人間は


繰り広げられる地獄の片鱗を目撃することになる

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