プロローグ
約500年前。
十数年に渡り続いたマルダ鉱脈戦争。
ロクナム国とリキュア国との泥沼の戦は、たった一人の男によって終結した。
銀狼将軍と、ひと振りの長剣。
リキュア国の王都クサントスに単身で斬り込み壊滅させた『銀狼将軍』はロクナム国の英雄として語り継がれ、あまたの敵兵を次々と斬り伏せおびただしい返り血で染まった彼の剣は『朱の狂剣』と呼ばれ両国から畏怖された。
銀狼将軍は左目を失った隻眼ではあるが、その眼光は刃の如きに鋭く、銀糸のように輝く髪は後ろに束ねるほどの長髪だったという。しかし奇妙な事に、将軍という地位にありながら戦時中の功績に関する資料は極少なく、その容姿を描いた図画に至っては皆無。リキュアを滅ぼした後の銀狼将軍の消息を記した歴史書も無い。
救国の英雄『銀狼将軍』の人生は、今もなお多くの謎に包まれたままであった。
想い伝える事の難しさ。想われ受け取る事の重さ。
どんなに想いを込めた言葉でも、届いた相手に伝わる想いは、そのほんのひと破片。
もしかしたら、想いそのものが変わってしまっているかも知れません。
報われなくとも、曲がろうとも、それでも人は想わずにはいられない生き物です。
登場人物の生きざまと共に、一度自らを離れてしまったら
還らない言葉、想いを、感じて頂ければ幸いです。