名前を忘れるリサ
「あれ…?」
その時、タオルに包まれた何かを見つけた。
「…鏡?」
銀縁の、細かい細工がついた鏡。
(久しぶりだね、リサ……)
「え…」
鏡を自分に向けているはずなのに。それなのに鏡に映るのは私じゃなくて…青い髪の、耳が長く尖った美しい男性。
「誰…?」
(忘れてしまったのかい?)
ふっと、体が無重力に投げ出された。
真っ暗な闇の中、一人佇んでいる男性…。
「私は環。君が付けてくれた名前だよ」
「環……あっ!」
思い出した。私が…寂しくて勝手に空想した人物。
「勝手に想像しただなんて。
私はちゃんと初めからいたのだよ?」
「えっ?!…私の心、読んだの?」
やだ、どうしよう!心の中読まれちゃうって…変な事考えられないじゃない。
「えっと…ごほん!
リサ、君は今の世界に満足かい?」
少し顔を赤らめたのは私のはしたない妄想でも見てしまったからなのだろうか。環は咳払いして聞いて来た。
「満足…なんて全然してない。私だけが不幸だよ…」
どうして私には両親がいないのだろう。どうして私は肌がこんなにも白いのだろう……どうして…私は大学に行けないのだろう。
「では…別の世界へ行ってみないか?」
「別の世界?」
「そう。人間がほとんどいない世界」
人間がほとんどいない世界…一体どんな所だろう。
「勿論、高校も大学もないよ。
付け加えるなら皆女性だけで友好的。男なんてほとんどいない」
私をいじめる男子達がいないんだ。
「行ってみたい…」
もう今の世界なんて嫌。
「では…この杖に触れて」