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20話 探索(渚)


 週末。ついに刃山くんと魔物討伐に行く日がやってきた。

 朝の鐘が鳴る頃に校門前に集合ということで、早めに待ち合わせ場所に向かうと、刃山くんはすでに到着していた。


「おはよう! 準備はできてる?」


「まぁな。一日で終わるはずだから大したもんは持ってきてないが」


「うん。討伐数に応じて報酬が貰えるらしいから、夕方まで頑張ろう」


「そうだな。そんじゃ、行くか」


 目的地の洞窟は学園から南に下ったところにある。そう離れてはいないので、歩いていける距離だ。

 二人とも軽装でサクサクと移動できたものだから、あっという間に洞窟に到着した。


 洞窟の入り口は、中から魔物が飛び出してこないように、現在は結界が張られた重い扉で仕切られている。

 扉の前に立つ門番さんにC級ライセンスを見せると、ゆっくりと門が開いた。

 中にはウチらの他にも冒険者が数チーム入っているとのことで、互いの妨害にならないよう場所を考えて狩りをするようにと念を押された。


「さて、いっちょ頑張りますか!」


「おう」


 扉が不気味な音を立てて閉まると、中には点々と蝋燭の灯りが灯っているのが分かる。

 なんとも幻想的な光景だけれど、奥に進めば進むほど魔物だらけとの噂だ。気を引き締めていかなきゃな。


 足を踏み入れて最初にかけた魔法は、防護術だった。

 刃山くんに術をかけると、彼は不思議そうにまばたきをして、拳でゴンゴンと岩肌の粗い壁をなぐりつけた。


「素手で思い切り殴っても痛くないんだな。どうやら効いてるらしい」


「強い衝撃が加わると効果がきれてしまうから、なるべく無駄な衝撃は加えないでね」


「わかった。ありがとな」


「うん。気をつけていこう!」


 ちょっとびっくりした。意外にも刃山くん、きちんとありがとうが言える子だった!



 入り口付近は綺麗なもので、魔物の姿も、その残骸も一切見えなかった。

 きっとひっきりなしに飛び込んでくる冒険者たちに駆逐されたのだろう。

 中は意外にも広く、道が枝分かれしている。

 なるべく奥まで進んで、生き残った魔物を狩ろうという話になった。


 魔物の姿が見えないと、少し気が緩んで余計なことばかり考えてしまう。


 月ヶ瀬さんと秋園先輩、週末は両家揃って会食だと言っていたっけ。

 秋園先輩は月ヶ瀬さんのことが好きなのかな?

 ハオダンでは、彼女が思いを寄せていた相手は西園寺部長だった。

 漫画の中ではキャラクターの心中が読めたけれど、今は彼らの心の声を引き出す術がない。

 二人はまるで家族のように親しげに会話していたから、お似合いといえばお似合いだ。

 ウチが入っていく隙は、もうないのかな――。



「オイ、夜倉。ぼーっとするな。奥に魔物の姿が見える」


 岩陰に半身を隠して、刃山くんははるか前方を見やる。

 はっとして彼のうしろに身を隠せば、たしかに何やら蠢く影が目に入った。

 

「トカゲかな?」


「そうだな。けっこうでかいみたいだ。斬りこむぞ」


 ここから見るに、全長は2メートルくらいだろうか。太い尻尾が特徴の蜥蜴を視認し、二人して戦闘体勢をとる。

 何やら呪文のようなものを唱えて、刀身に息を吹きかけ、刃山くんが先頭をきって駆け出した。

 ウチも攻撃術を唱えながら後へと続く。


「くらえ!!!」


 地を蹴って跳躍した刃山くんは、ギロチンのように水平にした刃を、蜥蜴の首元に叩き付けた。

 ブツリという生々しい音を立てて、その首は無残に転がった。

 首を落としてなおビクビクと蠢いているその体に、とどめを指すべくウチは攻撃魔法を放った。


「月佳よ!! 降り来たりませ!!」


 光の矢が相手に降り注ぎ、全身を貫く。蜥蜴は完全に沈黙した。


「さ、どんどん進もう!!」


 この先はさらに魔物が増えるだろう。視線を交わして頷きあったウチらは、じめじめと湿った匂いが充満する洞窟内を駆ける。

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。こんな状況でも、フッと月ヶ瀬さんの顔が頭をよぎる。


「今はいい!! 忘れてしまえ!!!」


 そんなことできるわけがないのに、頭を振って叫ぶ。

 刃山くんが振り返って眉を寄せた。なんでもないと笑みを見せる。

 ここから出たら、月ヶ瀬神社に行ってみよう。月ヶ瀬さんと直接話をしないと、この胸のざわめきはおさまらないはずだ。




「はぁ……はぁ……けっこう倒したね」


 洞窟に侵入してから6時間ほど経過した。

 辿ってきた道を振り返ると、点々とオオトカゲの残骸が見える。

 全部で30体ほど倒しただろうか。新しく覚えた術は、あらかた試すことができた。

 気になっていた上級月術も無事に成功したし、今日の収穫は上々だ。


「ここはザコばっかりだな。もっと骨のあるヤツはいないのか」


「仕方ないよ、C級の依頼だもん」


「でもまぁ、自分の実力はだいたい把握できたよな」


「だね。C級は楽勝。日々の鍛錬の成果だよ」


「ここまで簡単だと、上級生に報告してもたいした反応はもらえないだろうな」


 2年や3年の先輩方は、当たり前のようにA級以上のダンジョンに潜るという話だ。

 C級は駆けだし冒険者のたまり場だから、恐らくお褒めの言葉はいただけないだろう。


「そろそろ帰るか。お前も心ここにあらずって感じだしな」


「う……ご、ごめん」


「何かあったのか?」


「ううん、何も。今日はいい修行になったよ。誘ってくれてありがとう」


「……いや、こっちこそ、補助術や回復術に助けられた。ありがとな」


 刃山くんの勢いがすごいので、後半は主にサポート役を買って出た。マネージャーらしい立ち回りができたと思う。

 互いに健闘を称えあって、洞窟を出た。もうすぐ夕方を知らせる鐘が鳴るころだろう。

 討伐の報酬をわずかながら受け取って、少しだけ懐があたたかくなった。新しい魔術書でも買おうっと。



「刃山くん、ウチ神社に寄っていくから先に帰ってて」


 月ヶ瀬神社の前でそう告げると、刃山くんは立ち止まってまじまじと私の顔を見た。


「また祈祷か? よくやるな」


「日課だしね。それじゃ!」


「ああ……またな」


 一瞬何か言おうとして口を開けたものの、刃山くんはその言葉を飲み込んで寮の方へと歩き出した。

 無愛想で付き合いづらいタイプかと思いきや、そんなことは全くない。ウチのことを気遣ってくれる良い人だ。

 またダンジョンに潜るときは、刃山くんを誘ってみよう。



 社務所に寄ってみると、今日は巫女さんしかいないようだ。

 もしかして今も会食中かな。そんな考えがよぎり、胸が疼く。

 境内を突っ切って月佳の祠まで歩けば、月佳像の前に設置された腰掛に座って、ぼうっと空を見つめる月ヶ瀬さんの姿があった。

 物思いにふけっている様子なので声をかけてもいいものか少し悩んだけれど、ウチは思い切って隣に腰をおろす。


「夜倉さん、どうしたの? 今日は祈祷に来ないものかと……」


「ちょっと遅くなっちゃいましたが、これから祈祷です」


「そっか。ごめん、ここにいちゃ邪魔だね」


 そう言ってその場を立ち去ろうとする月ヶ瀬さんの袖を引っ張って、留まるように促す。

 心臓が破裂しそうな勢いでバクバクと悲鳴をあげている。


「1つだけ、聞きたいことがあります」


「何?」


「えっと、その……月ヶ瀬さんは今、好きな人はいますか?」


 勇気を振り絞っての質問だった。

 彼は何事かと一瞬キョトンとした顔を見せると、小さく息を吐いて答える。


「どうだろうね。自分でも分からないんだ」


「どういうことですか?」


「今、そのことで悩んでいてね」


「私でよければお話聞きますよ。悩みを吐き出してください」


 覚悟を決めて、ぎゅっと膝の上で拳を握り締める。


「うーん……これまで誰にも相談してこなかったからなぁ。君に余計な心配はしてほしくない」


「話してくれなきゃ、どこまでも今日のことを引きずります」


 彼の目を見ながら、促すように重い口調で言葉をぶつける。

 月ヶ瀬さんの気持ちを知るまで、もう一歩も退かない。


「分かった、話す」


「はい!!」


「最初に言っておくとね、僕と舞は許婚なんだ。幼い頃に両親が決めたものだ」


「そうだったんですか。どうりで親しげなわけです」


 勘違いであれと、心のどこかで思っていた。けれど、そんなささやかな希望は脆くも崩れ去った。


「確かに親しいし、順調に祝言に向けて話が進んでる」


「それは……いいことではないですか」


「お互いにその気がないとしても?」


「そうなんですか? だとしたらやっぱり、他に好きな人がいるんですね」


 その気がないの一言に、いくらか安心した自分がいる。月ヶ瀬さんが頭を悩ませている問題だというのに、ウチは軽薄だ。


「好きな人がいるわけじゃないんだ。ただ……」


「ただ?」


「舞は僕じゃない相手を好いているのが分かる。そして僕は、その想いが実ってほしいと思っている」


「その相手は、西園寺部長ですか?」


「どうして分かるの?」


「秋園先輩の態度を見ていれば、なんとなく」


 会話をしているときの目が全然違うし、彼のために鍛錬着を縫ったり、遅くまで武術家向けの回復薬を調合しているのを知っている。


「やっぱりそうか。君から見ても……」


「はい。部長は秋園先輩の思いに気づいていないようですが」


「司は鈍いからなぁ」


 どうしたものかと、月ヶ瀬さんが大きく溜息を吐いてうなだれる。

 いつもピシっと凛々しい姿を見せてくれる彼にしては珍しいリアクションだ。


「部長も、秋園先輩のことは好く思っているんじゃないかと思います。ただ、気になるのが……」


「なに?」


「月ヶ瀬さんは、秋園先輩のことを好きかどうかです」


 もし好きなのだとしたら、簡単に折れろとは言えない。


「僕にとって舞は家族同然だ。大切に思ってはいるけれど、それは恋愛感情とは違うと思う」


「なるほど。他に気になる女性はいますか?」


「そうだねぇ……今は夜倉さんのことが気になるかな」


「……えっ!!!?」


 まさかの、ウチ!!?

 冷静につとめていた頭の中が一気に沸騰した。うまく言葉が出てこない。


「そ、それってどういう……」


「いつも元気に頑張っているからさ。そういう前向きな姿勢を見ていると、こちらも自然に気持ちが上昇してくるんだ」


「実力が足りないから、あがいているだけで……」


「そこがいいところだと思うよ。君の健気な姿を見ていると、応援したくなる」


「あ、ありがとうございます!」


 顔から火が出そうだ。まさかそんな風に思っていてくれたなんて。


「こちらこそ、ありがとう。悩みを聞いてもらって少しスッキリしたよ」


「いえいえ。秋園先輩と部長が結ばれたら解決できそうなんですが……」


「僕はこれでも、二人をくっつけようと10年近く頑張ってきたんだよ。でもダメだった」


「やっぱり難しいですよね。私も協力しますから、一緒に頑張ってみませんか?」


 頼まれなくても引き受けたい仕事だ。二人が両思いになってくれたら、ウチの悩みも晴れる。


「本当? 協力してくれるのかい?」


「はい! 秋園先輩の想いが実ってくれたら嬉しいですし!」


「そっか、本当にありがとう。少し計画を練りたい。これから時間ある?」


「あります! 作戦立てて頑張りましょう!!」


 思いもよらぬ展開になってきた。

 けれどこの方向性は、ウチも月ヶ瀬さんも心から望むものだ。

 鈍い部長に乙女心をぶつけて、恋を成就させよう!!



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