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雷子  作者: 三幸
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曹操軍襲来 下

曹操軍襲来 下


 曹仁率いる曹操軍を退けた劉備たちであったが、火計によって新野を失ってしまった。

 劉備達は、劉表の治める襄陽へと身を寄せる。

 襄陽は荊州の中心にあたり、中華でも洛陽、許昌にも劣らない大都市のひとつである。


 劉備軍が曹操軍を撃退したという報せを大いに喜んだ劉表であったが、

 その身体は病によって蝕まれており、死期が迫っている有様であった。


 劉備軍は劉表から与えられた屋敷で、それぞれの時間を過ごしていた。


 屋敷のある一室に灯が揺らめく。

 机に竹簡を広げ文字をつづる周倉が一息つくたびに、燭に灯された炎が揺れた。



周倉「よし、大分読み書きが出来るようになったぞ! いつかは『六韜』『三略』を読んでしっかり勉強しないとな」


  『六韜』『三略』とは兵法書で『孫子』『呉子』『司馬法』と非常に人気の高い兵法書であり軍に携わる者であれば

 知らない者はいなかった。


張飛「なんか難しいことしているねー」


 張飛は、読み書きの勉強中の周倉に声をかける。


周倉「へへへ、関羽の姉御が張飛さんに勝つ方法を教えてくれたので」


張飛「勝つ方法? なにそれ?」


周倉「張飛さんは力だけじゃないですか。それ以外の勉強が良くなれば結果として張飛さんに勝てると教わったんです」


張飛「なにそれ? それじゃ! 張飛が馬鹿みたいじゃんかー? じゃあ、張飛も勉強するもんねー」


周倉「ダメだよっ! それじゃおいらが勝てなくなるじゃんかー」


張飛「これを読んだらいいのね? そしたら勉強出来ることになるのよねっ!」


周倉「あっ! ダメ!!」


 制止を振り切った張飛が、周倉の竹簡を奪った。

 張飛は奪い取った竹簡を広げて読み始めるが、次第に無言になり動きが固まった。


張飛「…………」


周倉「張飛さん??」


 固まる張飛に周倉が声を掛ける。


張飛「……………………」


周倉「張飛さん、もしかして字が読めない? 超・悲・惨……」


張飛「うるさい! うるさい! うるさーい!!」


 図星を突かれた張飛は周倉に詰め寄る。

 なおこの時代で読み書きができない者は珍しい話ではない。

 キョウのように、青年になってから文字を覚えるということもよくある話なのだ。


周倉「字、教えましょうか?」


張飛「張飛は強いの! だから誰にも負けないんだもん! だから勉強なんて必要ないのっ!!」


周倉「張飛さん。ゆっくりおいらが教えますよ。そして誰にも言いません」


張飛「周倉……ありがとう。でもやっぱり勉強はいいやー。それよりもっともっと強くなれるように頑張るよー」


 周倉の心使いに感謝を伝える張飛であったが、自身が飽きっぽい性格であるという自覚がある。

 途中で筆を投げ出すことが見えているため、習字の誘いを断り部屋を出る。

 

 廊下を歩きだした張飛に、劉備が声をかけた。


劉備「飛ちゃん。少しお話しがあるの」


 普段は包容力に溢れている劉備の声色が、どこかくぐもっているように感じた。

 劉備の顔色を窺うと、表情に陰りがあった。


張飛「何? どうしたの?」


劉備「キョウくんは……戻ってきた?」


張飛「見てないよ。どうしたのー?」


劉備「もしかしたらね……もう戻ってこないかもしれない……」


 劉備はキョウが未だ戻らないことへの不安を、張飛に打ち明けた。


張飛「駄目だよ! 兄ちゃんは張飛が拾ったから張飛が飼い主なのに! なんで!? 孔明が何かしたの!?」


劉備「孔明は何もしてないわ。孔明はキョウくんに選択の機会を与えただけ」


張飛「何でそんなことするの!?」


劉備「キョウくんは何も知らない優しい子……私達とは根本的に違うの……」


 キョウの不在の原因を知った張飛は、孔明に対する不満を募らせる。


張飛「孔明は……孔明はどうしてるの……」

 

 張飛の声に怒りが込められる。


劉備「落ち着いているように見えるけど大分無理してるみたいね」


張飛「孔明のとこに行ってくる!」


劉備「飛ちゃん! 待ちなさい!」


 張飛は劉備を振り切り、孔明の元へ駆けだした。



張飛「孔明!!」


 張飛は孔明の部屋の戸を勢いよく開き、吼えた。


諸葛亮「張飛殿。お待ちしていましたよ」


 孔明は張飛が来ることを想定していた。


張飛「なんで! なんで勝手なことをするの!?」


諸葛亮「あら? 自信がないのですか?」


張飛「自信? 自信てどういう意味?」


諸葛亮「キョウが張飛殿を放っておくわけないではないですか」


張飛「ほんと!?」


諸葛亮「当然です。兄と慕う張飛殿を見捨てるような無慈悲な者を私は弟子にとりません」


張飛「なんだーならいいや!」


 張飛は孔明の言葉を聞いて胸をなでおろした。


 そのとき、張飛の背後から足音が近づく。

 張飛が気付いて振り返ると、そこにはキョウの姿があった。



キョウ「先生。ただ今戻りました」


張飛「兄ちゃん!」


 キョウが戻ってきたことで、張飛は嬉しそうにはしゃぐ。


諸葛亮「その顔は決心が付いたと思ってよさそうですね」


キョウ「はい。今日のことがなければ、おそらく僕はこれから前に進むことに挫折していたでしょう。考える機会をいただきありがとうございます」


諸葛亮「必ず戻ると信じておりました」


張飛「へへへへ本当は張飛と別れたくなかったんでしょ?」


キョウ「先生、僕はこれからも先生から多くのことを学び先生を支える人になりたいと思います」


張飛「は?」


 張飛を相手にせず孔明を支える旨を口にしたキョウに、張飛は不満を募らせる。


諸葛亮「あっありがとうキョウ……とても師として嬉しく思います……」


キョウ「先生! 本気でそう思っています!」


 孔明の何気ない返事に対し、キョウは気持ちが伝わっていないと思い声を強めた。


諸葛亮「えっええ! ちゃんと伝わっていますよ!」


 孔明の正面に立つキョウの言葉は嬉しくも横で不機嫌そうにいる張飛に孔明は気が気でならなかった



張飛「兄ちゃん……張飛も支えて欲しい……」


 ドスの聞いた声で張飛は言う。


キョウ「え? ああ、いたのか……張飛を支える? どうやって? 僕より遥かに強いのに」


張飛「兄ちゃんが張飛より強くなればいいだけでしょ! 来て! 張飛が鍛えてあげる!」


キョウ「ちょっ! 今から!? 待ってくれ!」


 張飛はキョウの腕を掴み訓練場へと引きずろうとするが、キョウは抵抗する。



キョウ「そっそうだ! どうしても言いたいことがあるんんだ!」


張飛「なに!? わけのわからない言い訳したら本気でしごくからね!!」


キョウ「とにかく聞いて欲しいんだ! 出来ればこの場にいるみんなに」


諸葛亮「ん? 張飛殿だけではなく私にもですか?」


キョウ「はい」


 張飛はキョウを開放し、キョウが口を開くのを待った。

 諸葛亮も同じくしてキョウの話を待つ。



キョウ「新野の戦いからこの襄陽に来るまで随分とかかりました」


張飛「兄ちゃん。足遅かったっけ? 結構早いよね?」


諸葛亮「寄り道ですか? 道中何かいいものでも拾いました?」


キョウ「いいえ……そういうことではありません。新野に戻ったら誰もいなかったんです……ここまでの道のりを趙雲さんに教えてもらい何とかたどり着いた……誰一人、行き先を教えてくれていないなんて酷くありませんか」


 「……」


 不憫を説くキョウの一言に、部屋が静まり返った。



張飛「孔明が悪いんじゃん」


キョウ「僕もそう思います」


諸葛亮「たっ確かに行き先を伝えていなかったのは……あ……なるほど……」


 孔明はキョウの言葉の意図に気付く。


諸葛亮「私としたことがいけませんね。キョウ、私の過ちです。襄陽からの道は大変だったでしょう。直ぐに身体を休めるといいでしょう」


キョウ「はい。そうさせて頂きます。これからは僕自身、先の動向を伺いますので」


張飛「……」


キョウは孔明の部屋から退出し、諸葛亮と張飛はそれを見送った。



張飛「これってさ……追いかけていいやつかなぁ……孔明。どうなの?」


諸葛亮「さっさぁ!? 私は知りませんよ!? 気になるなら追いかけてみては!?」


張飛「そうしてみる……」


 張飛はキョウを追いかける。

 結局のところキョウは張飛の訓練に対して孔明に助けを求めており、孔明はキョウの考えに気づき配慮したものであった。

 だが張飛はキョウを追いかけて行ってしまった。



諸葛亮「はぁ……疲れた……」


劉備「孔明……」


 影でことを見守っていた劉備が諸葛亮に声をかける。


諸葛亮「とりあえず凌ぎました……」


劉備「どういうことです? キョウくんが戻ってこないことを懸念して無理をしていたように見えましたが……私の見当違いでしたか?」


諸葛亮「キョウは私が見込んだ男です。そのことは心配していませんでした……それよりも師弟の関係であるキョウに張飛殿が私に対して敵対心を持つことの方が心配でして……」


劉備「なるほど……そうなれば確かに困りますね……」


諸葛亮「本当に……」


 実際に張飛は諸葛亮への不満とやきもちを募らせており、

 キョウが姿を消した場合、張飛の怒りの矛先は文字通り諸葛亮へと向けられていただろう。

 劉備軍の頭脳の要である諸葛亮と、武の要である張飛の対立は避けなければいけない。


 だがそれは、キョウが新野の戦いの痕をどう受け止め、身の振り方を考えるか次第である。

 それは、劉備や張飛がどうこうできる話ではなかった。


 キョウの離別と陣営内の不和という不安が払拭されたことに、劉備はふくよかな胸をなでおろしていた。



関羽「劉姉、孔明」


 安堵する劉備と諸葛亮に、関羽が声をかけてきた。


劉備「雲ちゃん。どうかしましたか?」


諸葛亮「劉表殿から使者が見えたのでしょう」


関羽「流石は孔明、その通りだ。使者から曹操軍撃退の祝辞と物資が届いている」


劉備「まぁ! それは急いで持てなさなくてはいけませんね!」


 劉備は関羽の報を聞き、劉表の使者を迎えるために部屋から去っていった。




諸葛亮「劉備軍に関羽将軍あり」


 部屋に残った諸葛亮は、唐突に関羽への賛美を述べた。


関羽「孔明軍師。突然どうされました……」


諸葛亮「劉備軍が曹操軍と戦えるのは関羽将軍がいてこそです」


関羽「いきなり何を仰る! 孔明軍師の軍略あってこそ我らは安心して戦えるのです」


 関羽の瞼の裏に浮かぶのは、火計すら陽動とする諸葛亮の計略。

 火計から逃れるために渡河する曹操軍の動きすら、掌の上で踊らされているにすぎなかった。

 畳みかけるような水計によって、圧倒的な戦力差をひっくり返したのだ。

 勝利で得たあの高揚感を思い出しながら、関羽はこう続ける。


関羽「あのようなことを即座に思い浮かぶのは流石の一言です」


諸葛亮「それは違います。曹操軍が荊州攻略に軍を向けることは明らかでした。そのことは私でなくとも分かる人も多い。だから私は劉備様にお仕えする時から準備をしていたのです」


関羽「準備を? 一体いつですか」


諸葛亮「私が新野に来て一番初めにしたことを覚えていますか?」


関羽「それは……ああそうだ。治水だ」


諸葛亮「そうです。春先までに田畑の水源を確保したかったのです。あれは来るべき時に使う水計と新野の農業の安定をはかる為……」


 新野の民のためであり、防衛のためでもある。

 二面性を併せ持った治水事業は、曹操軍撃退のために花開くこととなった。


関羽「そうであったか……」


諸葛亮「ですがそれだけでは足りない。関羽殿がいてこその軍略です」


関羽「いやいや、諸葛殿が……」


諸葛亮「いえいえ、関羽殿が……」



諸葛亮「…………ふふふ」


関羽「…………あはは」


 どうぞどうぞと謙遜をぶつけあう二人は、一時の沈黙ののち笑いだした。


関羽「我らは互いが互いを必要としているようだ」


諸葛亮「そうですね」


関羽「我らは知と武、役割が違うがどちらが欠けても足らぬ。どちらも必要なものだ」


諸葛亮「共に劉備様の築く仁世の為。我ら二人、礎となって参りましょう」


関羽「そうですな」


 関羽と孔明。中華の武と智の頂点共言える二人が称えあう……


 その頃キョウは張飛に捕まり、訓練を遥かに超えるしごきに耐えていた。



 屋敷の一角にある兵舎では、兵士が報告をまとめている。

 趙雲の指示で、先の戦で得た物資の調査をしていたようだ。


劉備軍兵士「趙雲様。曹操軍の物資は全て回収しました」


趙雲「うむ。亡骸から剥ぎ取った武器や鎧はどうだ? 再利用出来そうか?」


劉備軍兵士「多くが泥にまみれており、洗う必要がありますが、損傷が少ないものが多くあります。これを帳簿にしてまとめておきました」


趙雲「そうか、助かる」


 趙雲は報告がまとめられた帳簿を受け取った。


キョウ「いてて……張飛のやつやり過ぎだよ……」


 報告を終えた兵士と入れ替わるように、くたびれたキョウが兵舎に入ってきた。

 張飛との地獄の鍛錬を終えたばかりのようで、いつにもましてやつれている。



趙雲「キョウか。戦いが終わったばかりなのに結構なことだ」


キョウ「好きでやっていたわけではありません。特に今は……」


趙雲「いいや。身体を酷使した後の訓練は精神の訓練にもなる」


キョウ「そうなんですか? って納得したいのですが……今はそんな気にはなれません」


 それは戦場の経験が多い者が得る感覚で、まだ自分には程遠いのでは……。

 そう感じたキョウは、趙雲の意見に同意することができなかった。

 単純に体力をすり減らされすぎて、同調する気力すらも薄れていたという面もある。


 

劉備「あっ趙雲さん。キョウくん」


 兵舎で立ち話を続けていたキョウと趙雲に、劉備が声をかけた。

 劉備が兵舎に立ち寄るとしたら、兵へのねぎらいに来たのだろうか?

 そう考えた趙雲の背筋はいつにもまして伸びていた。


趙雲「劉備様。劉表殿との使者とのご面会を終えたのですか?」


劉備「ええ……ちょっと疲れてしまいました」


キョウ「疲れるって……どうされたのですか?」


 張飛にしばかれた自分とは違う疲労の色を見せる劉備に、キョウは事情を伺った。


劉備「劉表殿から曹操軍撃退の恩賞を頂いたのですが……武器ばかり……まるでこれでまた戦えと言わんばかりです」


趙雲「そうでしたか……」


 恩賞として受け取ったものが武器であったため、劉備の足が兵舎に向くのは不自然ではなかった。

 しかし、恩賞を受けた劉備の表情に、ふたたび陰りがうかがえた。

 劉備の性格を知っている趙雲は、その表情から心情を察し、自身が伝えるべき報告を始める。


趙雲「曹操軍から奪った物資ですが、いかがいたしましょうか」


劉備「全て売って下さい。そして兵達に酒と食事を振る舞って下さい」


 劉備は悩むことなく、ぴしゃりと告げた。


キョウ「え!? 何か勿体なくないですか!? 少しは残してこれからのことに使えば……」


趙雲「いいんだキョウ。劉備様は持たざる者だ」


キョウ「どういう意味ですか?」


 新しく得た拠点で物資が整わない中で、戦果として手に入れた物資を手放す。

 その意味がキョウにはわからなかった。


趙雲「それが劉備様ということだ」


劉備「ただの貧乏人って意味ですよ」


趙雲「いや! 自分はそんな意味で言ったのでは!!」


 自身が発した賛辞を蔑むような言い回しに繋げられた趙雲は焦り、弁解した。



劉備「冗談です。いいですかキョウくん。世が物で溢れ生活にゆとりがある時代であれば、私も蓄え大事に備えることもあるでしょう。ですが今は乱世……時として物資は人の命以上の価値があるのです。もちろんそれは一部の人達に限ることですが」


キョウ「ですが劉備さんには……いや、曹操と戦う為には必要ではありませんか」


 曹操軍と戦うために劉備軍に身を置くことを決めたキョウには、

 曹操軍と戦うために手に入れた物資を手放す理由が、ますますわからなくなった。

 キョウの疑問に対し、劉備が言葉を続ける。


劉備「ふふふ。私に付き従う兵は数千……過剰な財産は分け与え、家族の元に仕送りでもした方が、みんなが幸せになれるではありませんか」


 手に入れた物資を手放して、分け与える。

 それは、劉備が、周りの人も幸せにしたいからだ。


 武具よりも、武具を手放したお金で皆の胃を満たしてあげたい。

 自分に付き従ってくれた兵士を、ねぎらいたい。


 劉備という人物の根源を、慕われる理由を、キョウはようやく垣間見ることができた。


キョウ「劉備さん……僕は劉備さんの魅力の根源が何かわかりました……」


劉備「そう……私は皆に命を差し出させる対価に財を持たないの。狡賢い非情な女でしょ……」


 キョウの尊敬を込めた一言に、劉備は自分を蔑んで答えた。


趙雲「自分は劉備様こそ天下の主に相応しい方だと信じております。自分がここにいる理由はそれだけです」


劉備「趙雲さん。ありがとう……あなただけは私一人になってもずっと傍にいてくれる気がします」


趙雲「当然です! 例え百万の軍勢の中を単騎で駆けることになろうとも自分は劉備様の元におります!」


 劉備と趙雲の掛け合いを、キョウは微笑ましいと感じた。


キョウ「羨ましい主従関係ですね」


劉備「ふふふ。キョウ君も孔明と仲が良いではありませんか……」


キョウ「お世話になっておりますので……さてと……そろそろ休みますね」


 キョウは劉備の元を去ろうとしたが、劉備がキョウの腕を力強く掴む。


キョウ「劉備さん? どうかしましたか?」



劉備「もうキョウ君は仕方のない子ですね……私の魅力の根源が何か分かったのですよね? 口に出して言ってみて下さい」


 思いもしない劉備の要求に、キョウはしどろもどろになる。


キョウ「え……えっと……ですね……」


劉備「もう! そんな焦らさないで下さい! 早く! 早く!」


 キョウににじり寄った劉備が催促を重ねる。

 趙雲はキョウに小声でささやく。


趙雲「素晴らしき志を持っている。だろ? 早く言えばいいのに」


劉備「趙雲さんは黙ってて下さい!!」


 劉備は趙雲を叱りつけた。

 趙雲は自分は間違ったことを言っていないはずなのにどうしてと……口を噤んだ。



キョウ「えっと……すみません……どちらなのか判断が付きません……」


劉備「ん? それは美人か可愛いかということですか? ははははは! そんな理由で答えられないなんて、キョウ君は本当に面白い子です!」


キョウ「えっええ! そうです! その通りです! だから答えられなかったんです!」


 ただでさえ女性慣れしていないキョウに容姿を誉めるなど無茶苦茶な話である。

 予想していなかった二択の答えに、キョウはとりあえずその場の勢いでごまかそうとした。


劉備「ならば教えてあげましょう! 可愛くて美人!! それが正解です!私の魅力はそれだけと言っても過言ではありませんからね」


キョウ「そっそうですね! そうですよね!! ははははは!」


 キョウはとりあえずその場の勢いでごまかし、愛想笑いを重ねた……。



趙雲「……」


 趙雲、字を子龍。

 口を堅く閉じる彼は、声を大にして言いたいことがあるようだが、

 劉備とキョウの笑い合う姿を、ただただ見守るのであった――。

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