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第8話 超人

 ダグラが殴りかかる。

 俺は咄嗟に、体全身を魔道の力で包んだ。


 今までの敵とは速さも迫力も違う。


「くっ!」


 殴られた衝撃で壁を突き破り、外に飛ばされた。


 殴っただけで? 

 それも、ただの盗賊が?


 ダグラはあのカプセルを飲んでから、明らかに動きが変わった。

 ドーピングかなにかの類なのだろう。


「さあ、どうだ? 俺のパンチは効いたか?」


 壁が脆く崩れてきた建物から、ダグラはゆっくりと俺の方へ歩いてくる。


「さあな」


「そうやって強がるのも今のうちだ!」


 ダグラはさっきと同じように殴りかかる。


 同じように。正しくは、同じようにしか出来ないからだ。


 さっきの攻撃で目は慣れた。

 速いがどうにかなる。

 

 踏み込んだ左足と大振りな右腕。

 俺は、単調な攻撃を軽くいなし、殴り返した。


 手下達もぞろぞろと外へ出てきている。

 エリスやナロも一緒になって、戦況を見守っている。


 敵の援護は……ない。この殴り合いには、ついていけないと悟ったのだろう。


 「クソガキがあああああ」


 大振りな右腕、次は左腕。ダグラのパターンだ。人間は、慣れ親しんだ動きをしてしまう生き物。パターン化された動きは、いくら速く動けようとも、そう簡単には変えられない。


 そろそろ、力任せな攻撃には飽きてきた。


漆黒鎧(デルアルミュール)


 黒い鎧で全身を纏う。魔道の力で包むのとはわけが違う。

 強度のある鎧を着たいときに着て、外したいときに外す。

 ベルトお気に入り魔道の一つ。


 まだまだ効果時間は少ないが、ちょっとやそっとじゃ、攻撃なんて通用しない。

 と、エレナとルナに教えてもらったのだ。


「なんだこの手品は? ふざけたことしてんじゃねえぞ!」


 殴る。殴る。蹴る。殴る。


 忙しいやつめ。


「もういいだろ」


「はあ、はあ。俺はな、お前みたいな生意気なガキが嫌いなんだよ」


「わかったよ……。これでおしまいだ」


 さっと、ベルトとの距離を空ける。

 息切れしたベルトは、俺の動きに不思議そうな顔をした。

 

火花の舞(エタンセル)


 ダグラの周辺に爆発を起こす。

 細かい爆発は、足から胸へと伝い、全身に広がる。

 数十発。体を這うようにして花火が舞う。

 


「ぐああああああああ」


「死にはしない。エリスにでも治療してもらうんだな」


「こ……殺……殺してやる」


「何だって?」


「殺してやる!」


 なんでそうなるんだ。

 怪我を治してもらって「ちくしょう覚えてろッ」みたいな捨て台詞吐いて終わりでいいだろ。

 

 ダグラは焦げた足を引きずりながら、手下達の方へ歩いていく。

 袋を持つ手下を見つけると、奪い取り、口へと放り込んだ。


 かみ砕くようにして大量に口から喉へ。

 さっきとは飲む量が違う。


「ぐあああああああ!」


 痛みにより表情が変わる。

  火花の舞(エタンセル)によって焦げた皮膚が元に戻っていく。


 ん? 待て、違う。

 変わったのは、表情じゃない。顔自体が変わっているのだ!


「グオオオオオ」


 

 全身の皮膚が艶を失い、目は赤く光りを放つ。

 元から太かった手足も膨張を繰り返し、服を裂いた。


 危険を察して、観客はダグラから遠くへ離れる。


「コ……コ……コロス?」


「あんた急にどうしたんだ?」


「コ……コ……コロス?」


 ダグラに俺の言葉は届いていないようだ。


「俺はここだ! さあ来いよ」


 危険な空気がする。まずは、俺に視線を向かせなければ。


「殺すんじゃなかったのか? おい、禿野郎」


「ハゲ……ジャ……ナイ」


 ピントの合っていなかった赤い目が、俺に焦点を合わす。

 禿って言われるのそんなに嫌なのな……と思っていたその時


「ゴガアアアアア!」


 ダグラの咆哮が響く。


 一瞬で俺の間合いに詰められた。ノーモーションとはまさにこのこと。

 筋肉の塊と化した足で地面を蹴ると、衝撃で俺の足元も揺れる。


 ただの体当たり。されど体当たり。

  漆黒鎧(デルアルミュール)ごと吹き飛ばされた。

 鎧の上から、衝撃が身から骨へと伝わる。


 おいおい、まじかよ。

 付け焼刃だが鉄壁だと思っていた。


 口から血? 

 久々に自分の血を見た気がするよ。


「グオオオオオオ!」


 ダグラが手を大きく広げながら叫ぶ。

 ここから見るダグラは、化物そのものだ。


 さて、どうする。

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