第7話 杖
「……はい」
ナロはダグラのところへ。
「姉ちゃん、ちょっとやってくんねえかな?」
「いいですよ!」
ダグラは手下の男に縄を解かせて、エリスに杖を渡した。
「じゃあナロ様いきますよおっ! えいやっ」
【超回復 !】
杖から光りが出る。
杖の先端から青く光ながら徐々に大きくなり、形が見えるほどの円になった。見覚えのあるそれは、中央に三角形が描かれ、円の内側に沿って文字が書かれている。読むことは出来ないが、魔女のいた世界の文字なんだろう。
そういえば、この世界の文字も読んだことはなかったか。まあ、どちらにしろ俺には読めん。今度、メイド達に文字の変換方法でも聞いておくか。
「き、傷が治っていく……」
ナロがポツリと呟く。
「こりゃ、すげえや」
『おお!』
ダグラが声を発すると、男達が一斉に驚きだした。
「ナロどうだ? なんか感じるか?」
「はい。傷もなくなり、ジンジンするあざの痛みも無くなりました」
「他は?」
「疲れもとれている感じがします」
「そうでしょ、そうでしょ! これが超回復 ですっ!」
「決まりだ。この杖を売りにいくぞ。お前ら支度をしろ」
男達が喜びながら身支度をしようとする。
「ええ! この杖売っちゃうんですか?」
「そうだ、金になるからな」
「あ、あの、この杖は私しか使えないと思うのですが……」
「ああ、いいんだ、姉ちゃん。この町にも魔術師はたくさんいる。杖だけ見せればいいんだよ」
「えっと……それで私は?」
「何か勘違いしてねえか。ここに来た時からお前の行くとこは決まってる」
ダグラが一呼吸置いて言った。
「”飼い主”のところだ」
「安心しな。姉ちゃんは引く手数多だろうよ」
ダグラはエリスの胸に目をやり、にやりと笑う。
「こっちの兄ちゃんは……”墓場”、だな」
『ひゃあはっはは!』
俺を見て、男達が高い声で笑った。
内輪ネタってやつか?
つまらないな。
「俺をどうするって? 禿野郎」
「おいおい、兄ちゃん。てめえ今なんつった?」
「筋肉禿野郎って言ったんだよ。聞こえなかったのか?」
ダグラがナイフを片手に俺に前に。
「今すぐに行きたいらしいな……。あの世で後悔でもしてな」
サッとダグラがナイフを縦に振った。
「ん……?」
俺は魔力を体に纏い、振り切るナイフの軌道に合わせて両手を出した。
「ちょうど、縄を解いてほしかったんだ。ありがとうな」
ダグラの顔がピクリと動いたのがわかった。
これだけ近くにいると、感情が手にとるようにわかる。
「なんなんだよ、てめえは!!」
ナイフをブンブンと振り回す。そんなものは意味がない。
お前が疲れるだけだ。
「はあ、はあ、はあ。なんで傷一つ付かねえんだ……」
「さあ、俺に聞かれてもなあ?」
俺はわかりやすく笑ってみせた。
「お前ら、あれ持ってこい!」
「兄貴、でもそんなことしたら……」
「聞こえなかったのか? 早くしろお!」
人の前で大きい声だしやがって。そんなに大きくなくても聞こえてるだろ。
ダグラはしびれを切らし、手下を迎えに行く。
「兄貴、これ!」
「早くよこせ!」
手下の男は、透明な袋の中にパンパンに詰まった何かを持ってきた。
ダラスは雑に取り上げ、袋に手を突っ込む。
そして、手からこぼれ落ちるそれを俺に見せた。
「お前にいいものを見せてやる。冥土の土産だ」
ダラスは薬のカプセルのようなそれを、5、6粒ほど一気に飲み込んだ。
「うっ! くっあ!」
「兄貴やっぱりそれは……」
「ぐあああああああ!」
ダラスは片膝を突き、苦しみだした。
勝ったか? 俺の勝ちか?
「はあ、はあ。成功だあああ! 行くぞクソガキ」
ナイフを投げ捨てた後、俺の方へダラスが向かってくる。
走っている?
いや違う、速すぎる。
今までに見たことのない速さだ。こんな動きが人に出来るのか?
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