第6話 再会
奥には、女を囲む複数の男達。手にはナイフを持っている。
目の前の視線は俺の方へと向いている。
「俺を騙したのか?」
俺は振り返り、ナロに聞く。
「ええ、そうよ」
今までとは違う声色で言葉が返ってきた。
「……命が惜しかったら、あそこに座っていることね」
ナロは、男達の方を指差し、歩いていくように促した。
まあ、いつでも逃げることなんて簡単だし、おとなしく座っておこう。
久々に歩いたし、休憩としようか。
まさか騙されるなんてな……。
そう思いながら、捕らわれたであろう女の方へ歩き出す。
「待て!」
男に腕を掴まれて、縄で手を拘束された。
「わかっている。大人しくしているだろう?」
「黙れ、あまり話すな。さあ向こうだ。早くしろ」
男に誘導されて女の方へ。
途中で拘束するために止められて、今度は急いで歩け。
ああ、わかった。もう出るわ。休憩はおしまいだ。じゃあな。
俺も暇じゃないんだ。その女には申し訳ないが、人助けが趣味ってわけじゃないんでね。
と、男と男の隙間から、女をちらっと見る。
「あっ!」
「あら!?」
俺の今回の旅の目的は達成した。
きめの細かい、透き通るような白い肌。青い瞳に下がっている目尻。
銀の肩まであるふんわりとした髪。俺と歳は同じぐらいに見える、その女。
そう。この穏やかそうな女が”魔女”だ。
女神だったあの時から、やはり容姿は変わっていない。
服装は……。
淡い影のようなグレーの袖なしワンピース。
胸のところがザックリと開いていて、大きな胸が強調されている。
これはリダの趣味だと思うがな。うん。リダ、あんたいいと思う!
「エリス!」
「あなたは、勇者だった……。ごめんなさい、お名前忘れてしまったわ」
「黙れと言っただろうが! そこに座って、静かにしておけ!」
俺は、エリスの横に捨てられた。
「……そう! ジン様」
エリスは大声を出した。
俺も黙っている気はさらさらなかったが、こんな大声で叫べなくても、と気まずくなる。
「お前、早く死にたいらしいな」
そう言うと、男は持っていたナイフをエリスの顔に近づける。
「女にそんなもの向けるもんじゃない。本当に強いやつは弱いものいじめはしないはずだが」
「あ? お前から先に殺してやろうか?」
男は顔を引きつらせて、俺を睨みつける。
「待て、まだ兄貴が来ていないだろ?」
別の男がなだめるが、すぐに反論する。
「獲物は一人いればいいだろ、こんなやつは兄貴が来る前に始末して隠せばいい。そうだろ?」
全員が静かになる。満場一致ということか。
まあいい、かかってこい!
静まり返った部屋に、ドアが開く音がした。
「なんだ。お前らいたのか。獲物は見つかったんだろうな?」
「あっ、兄貴。こっちに2人。ほらっ」
男が別人のような態度になった。
こいつがさっき男達が言っていた兄貴。ボスってことだな。
「おお、今日は2人か。よくやったよ、ナロ」
「ありがとうございます、ダグラさん」
ダグラと呼ばれたボスは、下を向いているナロの頭を、髪がくしゃくしゃになるまでなでた。
「兄貴、こいつら金目のものは持ってなさそうですが」
「お前らじゃ、価値がわからないもんもあるかもしれないからな」
ダグラは俺とエリスの方へ歩き出す。
「女は売り飛ばせば、金になると思いますぜ!」
ハッハッハと、男達の大きな笑い声が響く。
筋肉隆々でスキンヘッド。小汚い半袖半ズボンから出る腕と足は、丸太のよう。
近くで見ると、余計デカい。
俺とエリスの全身を舐め回すように見ながら言う。
「変な格好しているな、お前ら。持ち物は?」
「私のはそこにある杖だけです」
「杖……。お前は?」
「俺も水と食料だけだ。他は何もない」
「なんだお前ら。ホントに何もねえじゃねーか」
どっと笑いが起きた。
「お前らは人か? 種族は?」
「魔女です!」
エリスが答えた。
「ほう。そんで何が出来るんだ?」
「怪我人の手当ては出来ますよ」
「魔術の類か……」
「ちょうど怪我をしているやつがいるなあ。ナロ、こっちに来い!」
ダグラがナロを見ずに大声で言った。
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