第5話 旅立ち
この数日の間、考えを巡らせていた。
ベルトはどこに行った?
なぜ笑っていたのだ?
魔女がいる、ステリアとは?
女神はどこに?
考えてみても、答えが出るわけもない。
その間も、訪問者への対応は続いていた。
*
「外の世界に出てみようと思う」
「ジン様、私達もついて行きます、ね、ルナ?」
「ええ、もちろん。ジン様、お願いします」
「ダメだ。2人には頼み事をお願いしたいと思っている」
『何でしょうか?』
「うむ。この世界にいる、ある女を探してほしい」
俺は、話を静かに聞いているメイド達に続けて言った。
「この世界に俺たちと同じ時期に来た女。”女神”と名乗っているはず」
「女神……ですか」
ルナが聞き返す。
「そうだ、女神リダ。2人は、会ったことがなかったか……。古い知り合いでな。俺が魔道の力で転移してきた時に、同じように転移したはずなんだ」
嘘が口から滑るように出る。詐欺師か、俺は。
「いつも、白の上下の服を着ている。容姿の特徴は……。そう、黒い艶のある長い髪と茶色い瞳。背は、俺と同じくらいといったところか。」
女神だったエリスの服装と、魔女だったリダの容姿の特徴。
覚えているのはこのくらいだ。
メイド達にはリダを探してもらう。
そして俺は、”魔女”となったエリスを探す。
女神と魔女が入れ替わっているのだから、リダはエリスの服装になっている可能性が高い。ベルトが”魔女と会った”と言っていたが、これは入れ替わった後のエリスのことだろう。この城に来た第一声が、”やっと会えたな、魔王”だったからな。ベルトは、入れ替わった後を前提に話をしているはずだ。
まあ、リダとエリスに一生会うことはない可能性だってある。
だが、もしも俺を殺しに来たら?
何かを企んでいたら?
会ってみないと、この不安からは解放されない。
まあ、この世界を見てみたいしな。
「何か情報を得られたら、俺のところまで伝えに来てくれ」
『承知しました、魔王ジン様』
城の外でメイド達に別れを告げ、森の中へと入る。
上から見下ろしていた時は気が付かなかったが、この世界特有の植物が多い。
虫も、動物も、見覚えのあるそれとは、少し異なっていた。
「これを持って地球に帰ったら、英雄扱いなんだろうな……」
そんな、生物学者みたいなことを思いながら森を進む。
すると、進路の奥の方に、倒れている人影が見えた。
目の前にいる現れた女は、手足に傷やあざがあり、服も裂けている。
「おい、大丈夫か?」
「うっ……」
上半身を起こし、水を与えると、何とか話が出来るようになった。
「あ、ありがとうございます。なんとお礼を言っていいか。あなた様は?」
「ジン。ただの旅人だ」
魔王ということは伏せておこう。
「何があった? 傷だらけだが」
「その……。盗賊から逃げてきました。必死だったので……」
「家は? 近くか?」
「はい。近くのステリアという町に」
ステリア。俺の目的の町だ。
「俺もステリアに用事があったところだ。ちょうどいいし、家まで送り届けてやろう」
「何から何まで、本当にありがとうございます。」
ボサボサにはねた長い髪と、疲れ切った顔が印象的なこの女は、ナロと名乗った。
俺は背中にナロを乗せて、森を歩いた。
もう本当に数日前までの俺ではないんだな……。
人を背負って歩くという単純な動作が、俺にそう再確認させた。
*
森を抜けて少しすると、ステリアに着いた。
「ありがとうございます。ここからは歩けます」
「そうか?」
背中から降ろすと、ナロは歩き出す。一歩一歩足を引きずる素振りをしている。
心配になったので、俺も横について歩いた。
かなりの田舎町。人にはすれ違うが、町の活気はあまり感じない。
「ここです、ジン様。今日は本当にありがとうございました」
「じゃあな、ゆっくり休め」
「あの、中でお茶でもどうですか?」
「いや、俺は用事があってな……」
「あの、お礼もしたいので。……よろしければぜひ!」
「……ああ、すまない」
町の中心から離れた、大きくはない木造の一軒家。家族と住んでいるのだろうか。
ナロが片開きのドアを開け、中へと促す。
俺が中へ入ると、ナロがドアをガチャンと閉めた。
「やあ、待ちくたびれたよナロ。今日2人目の獲物だ」
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