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第4話 ”勇者”

 冒険者がこの城を訪れてからというもの、噂を聞きつけた腕に自信のある者達が、城を訪れては俺に罵声を浴びせて帰っていく。そんな日常を繰り返していた。


 一人で来た賢者や、10人程で来た騎士の軍団。ゴブリンを連れてきた者もいた。

 いつも決まって一人で対応している。エレナとルナには手を出させない。

 魔王のスキルを確認する絶好の機会だったからだ。おかげで魔王らしさに、より磨きがかかってきた。


 広めの俺達の部屋は、さながら闘技場といったところだろう。

 訪問者が帰ると城内を元通りにし、またぐちゃぐちゃにされて、とそんな感じだ。





 そんな今日も訪問者だ。


「さて、今日はどんなやつが来るのか……。ん? また一人で来たのか。」


 城に向かっているのは一人。

 冒険者、賢者、騎士、ゴブリン部隊。何でもござれ。





「やっと会えたな、魔王」


 扉が開き、目が合ったのは、見覚えのある顔だった。


 無駄のない、シャープな目鼻立ち。長い艶のある銀の髪。

 まっすぐなその瞳が俺を見つめる。


「誰だお前は?」


 知った顔だが、言っておかないとな。


「……」


 俺の問いには答えない。


 鍛え抜かれた体に似合う、剣と装備。

 当たり前だが、こいつはもう、魔王ではない。


「何しに来た? 要件は何だ?」


「”勇者”というのは”魔王”に会いに来るものではないのか?」


 ベルトは笑った。


『ベ、ベルトさま?』


 エレナとルナは声を震わせた。

 長く仕えていた主人がそこに立っている。状況が読めないだろうな。


「俺は勇者ベルト。魔王ではない、人違いだ」


 名前も変えろよ。

 口にしなければいいかもしれないが、勘づかれるのもまずいだろう。

 消滅してしまうぞ。


「行くぞ、魔王!」


 ベルトは剣を勢いよく振りかざし襲い掛かる。

 やばい。こんな屈強な男に攻撃されたら……。


「くっ!」

 

 ベルトの声と共に、剣が弾かれる音。

 ベルトは俺の体に攻撃したはず……。




 ”いや、俺は薄々感じていたんだ。こうなることを”




 もう一度と、ベルトが全身に力を入れ、振りかぶる。


「うおおおお!」


 カーンと高い音。

 俺の放つ少量の魔道の力で弾かれて倒れる。

 ベルトは、何事もなかったように起き上がり、剣を拾い上げた。


 そして、俺の方へゆっくりと歩いてくると正面に止まり、こう言った。


「……勇者の能力とはいったい何だ?」


 ベルトは続けた。


「勇者だったお前に会い、そして一戦交えれば、何かわかると思っていたのだがな……」


 そんな事を聞きに、ここまで来たのか?

 そうか。ベルトはまだ、俺が勇者だったと勘違いしている……。


「能力? そんなもの、最初から無い」


 そう……。お前はただの人なんだよ。


「なぜ白を切る? 教えるメリットがないとでも言うのか?」


 俺は、エレナとルナに聞こえないように、ベルトを俺の方へと引き寄せた。


「嘘は言っていない。創造主に何度も言った通り、俺は勇者なんかじゃないんだ」


「……。お前と入れ替わって特殊な能力を感じないのは?」


「俺が元々能力なんて持っていなかったからだ」


 何度も言うと、少し悲しい。


「なるほどな。ではなぜ、私には剣と装備を与えられたのだ?」


「知らない! 創造主の気紛れか何かだろ!」


 知らないし、わからない。何を言われても、答えられないんだ。


「……そうか邪魔をしたな」


「魔王の昔の名を名乗り、姿まで……。この悪党め」


 エレナが語気を荒げる。

 ルナは、そんなエレナを心配そうに見つめる。


「悪党か。昔はよく言われたものだな……」


 ベルトはポツリと呟いた。


「魔王ジン。……魔女は、近くのステリアという町にいる」


 魔女……。ステリア……。


「何のつもりだ。なぜ俺にそんなことを教える?」


「さあな、気紛れだ」


 そう言うと、ベルトは踵を返す。


「どこへ行く?」


「俺の好きなようにするさ」


 ベルトは笑みを浮かべて去っていった。

 突然現れて、突然消えた。

 何かをされたわけじゃない。けれど、俺と入れ替わって能力を失った男に、少し同情をしていた。

 この城での経験がそうさせているのだ。


 この世界で生きるには、あまりにもひ弱過ぎる。

読んでいただきありがとうございます。これからもお付き合いください。

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