第3話 冒険者
「お前が親玉か?」
誰だ、お前は?
頭の中に浮かんでいたのとは違う3人に、拍子抜けしてしまった。
「お前が親玉かと聞いている」
先頭に立つ男が、イライラしながら俺に言う。
魔王に似つかわしいこのだだっ広い部屋に響く、大きな声。
中央にいる俺とはある程度離れているのだが、はっきりと聞こえる。
金髪で短く刈り上げた髪。片手には剣を持ち、鎧を身にまとっている。
後ろには、斧を持つ体格のいい黒長髪の男と、すらりとした体型の仮面の女。手には杖を持っている。
何か俺に用があるのか?
「貴様、ジン様に向かってなんて言葉を!」
エレナが金髪男を睨みつける。
「ジン様、私達が追い払いますので」
続けて、ルナがゆっくりと俺に言う。
魔王に仕える2人だが、エレナとルナは性格も言動もまるで違う。
この数日で、それが心地よく感じていた。
「待て、2人共! ……話を聞こうじゃないか」
とりあえず、話を聞こう。何が何だかわからないからな。
「少しは話がわかるやつのようだな……」
金髪男が俺に言った。そして、少し間を空けてから続ける。
「俺は冒険者カリウスだ、お前は?」
「魔王ジン」
「カナリという村を知っているか? この近くの村だ」
「知らんな」
「1週間程前に、小さな村を炎が襲ってな……。ちょうどその頃から、近くに無かったはずの城が建っているというじゃないか」
「……それで?」
冒険者。ということは、誰かの依頼でここに?
「何がそれで、だ。白々しい。なあ、魔王ジンよ。お前の仕業なんだろ?」
「……そうだと言ったら?」
まあ、こんな展開になるよな……。メイドがやったことは、俺のせいだからな。
「話はこれで終わりだ!」
3人が各々の武器を構える。
その瞬間、俺の体がビクっと反応したのがわかった。
武器を持ち、敵意丸出しの相手なんて初めてだから、無意識に驚いているのだろう。
「ジン様……」
ルナが、申し訳なさそうに俺を見つめている。
「気にするな。すぐに終わらせる」
でああああ、と溢れんばかりの覇気で、金髪男が走ってくる。
いい機会だ。魔王の力、どんなものかお手並み拝見といこう。
見よう見まねで始めた魔王の訓練。これまでは、実験的な部分が多くを占めていた。
恥ずかしながら、魔王見習いといったところだ。
ここらで一度、魔王としての威厳と尊厳を見せつけてやろう。
いや、そこまではいらないか……。
兎にも角にも腕試しといこうか!
「来い!」
金髪男は、剣を横に寝かせるようにして両手で持ち直す。
走った勢いのまま、俺の胸を目掛けて力を込めて振った。
カーンと高い音が響く。
腕と剣が交わった音だ。
右腕に魔道の力を集中させて剣を防ぐ。
押し返されまいと足に力を入れる金髪男を、端へと蹴り飛ばした。
石の床と金髪男の剣が擦れる不快な音を聞きながら、考えを巡らせる。
まずはこの男を倒すことを優先しなければ。
明らかにリーダーっぽいし、一番厄介そうだ。
そう思い、金髪男の方へ歩いて向かおうとすると、今度は長髪男が突進してくるではないか。
……なるほど、金髪男への追撃を防ぐためか。
いいだろう。一人ずつ相手をしてやる。
「ん? 何だあれは?」
視線を長髪男に変えた時、一瞬、何かが光ったような……。
長髪男の後方、扉のある位置からか?
「……何をする気だ?」
俺は長髪男に聞こえるように、大きく声に出して言った。
長髪男は、にやりと笑うと横へと回避した。
長髪男によって作られていた死角から、魔法陣が浮かび上がる。
扉の前には仮面女。一歩も動かず待っていたのだ。
片手に持つ杖の先端から、眩い光が放たれている。
そうか、長髪男の動きはおとり。
俺は少し勘違いしていたのかもしれない。女はヒーラーなんかじゃなく”戦闘要員”。
そして、うまく死角を作って攻撃を待っていたのだ。
【爆火 !】
人一人飲み込みそうな炎が、音を立てて襲ってくる。
人生初めて体感する魔法。
炎の塊が、鼻にツンとくる匂いと、体全体へのジリジリと熱い感覚を連れて迫ってくる。
これは、まずいな……。
【黒壁 】
魔道の力でドーム状の壁を作り、目の前に迫った炎を寸前のところでガードした。
ドームの中にも響く大きな音。外には白い煙が充満している。
炎を防ぎきったところで、黒壁 の効果が切れた。
こんなものか。まだ少し慣れが必要かもしれないな。
と考えていたその時、煙の中から影が現れた。
「うおおおお!」
俺の頭を目掛けて、長髪男が斧を垂直に下した。
「くっ!」
「終わりか?」
「グハッ!」
次から次へと。ヒヤッとするんだよ!
俺は、ガードに使った逆の手で首を掴み、長髪男を壁の方へと思いっきり投げた。
そして厄介な煙を風でかき消し、目を凝らした。
男は2人倒れている。
女は動いていない。次の攻撃の予備動作へ入る様子もない。
メイド達はというと……、戦況を見守っているという感じ。お利口さんだ。
「いい連携だ。だがそんな攻撃じゃ傷一つ付けられない」
「くそ、ゼリクがっ! この野郎があああ!」
ゼリク、長髪男の名だ。
血を吐きぐったりしている長髪男を見て、金髪男が激昂し俺に突進してきた。
「あああ! 倒れろ、倒れろ、倒れろよおおおお」
両手で振り回す剣には、力も意思も感じない。ただ風を切るだけ。
俺は体で受け止めた。受け身を取る必要もない。傷一つ付かない。
「はあ、はあ、はあ……」
「終わりにしよう」
剣を手放し、立ち尽くしている男に、言葉が届いているかはわからない。
「ゴホッ」
目の前に倒れたそれを、仮面女へ投げる。
「カリウスッ!」
「こいつらを連れて帰れ。二度と来るな」
俺は、壁にもたれた長髪男を顎で指し、仮面女を睨みつけた。
【空間移動!】
魔法陣を浮かべた後、3人は消えた。
『さすが、ジン様』
「お遊びを見せてしまったな。すまない」
とりあえず魔王っぽくなってきたかな。
やはり、魔王として生きるとなると、厄介ごとに巻き込まれるものなのか……。
先行きが不安になった。
まあ、村に火をつけた俺らが悪いんだがな。
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