第22話 敗北
会場に響く、震えた大声。
近くにいる俺だけに向けたものではないような、そんな気がした。
「なぜ、自分から消えることを選ぶんですか? なぜ、反撃をしないですか?」
エリスは続けてなぜ、と言いかけて止めた。
他にも俺に言いたいことがある、そんな様子だった。
「そんな強い人間ではないんだよ、俺は……」
目の前の小石を拾い、力一杯握りしめた。
粉々になる小石を見ながら唇を噛んだ。
俺はあの日から、いやあの日よりもずっと前から何も変わっていないじゃないか。
「それでも……。あなたは消えることを選ぶような人ではないです……。私はそう思っています」
優しく、詰まる声が耳に残った。
エリスは言葉を選びながら必死に伝えてくれたのだろう。
「ありがとう」
きっとエリスには届いていない。
俺の精一杯はたぶん。きっと。
「あと少しだったっていうのに……。優秀なセコンドを持ったな」
大きくため息をつくと、グラファは俺を見下ろしながら続けた。
「まあ、ここでお前が消えてくれたら大満足なんだが、次の機会にでもしておこう。どのみち、この国でお前はうまく生きていくのは無理だろうしな。……優勝だけはさせてもらうことにするよ」
鈍い音と共に、頭に激痛が走る。
握りつぶした小石が、花火のようにチカチカと目の前で弾けて消えた。
*
遠くの茶褐色にピントが合う。
天井……。シミ。
エリスとナロが傍から目をのぞき込み、良かった良かったと抱き合っている。
「痛った……」
頭の後ろ、奥の方がジンジンする。
グラファが言い放った後、俺は気を失って……。
「俺は負けたんだな?」
ベットの上から聞いてみた。
抱き合っていた2人が目を合わせ、下を向く。
わかりやすすぎはしないか……。
そうか。俺は負けたんだな。
消えることはなく、負けたんだ。
ガチャっとドアの開く音がした。
「目を覚ましたんなら、早く帰ってもらえないか?」
武道祭のスタッフが早く立ち去るように急かす。
大会参加時はあれだけ好意的だったはずだが……。
今となっては、悪党というわけか。
*
冷たい視線を感じながら、控室から会場を後にする。
体は何とか動けるが、エリスの肩を借りて歩くのが精いっぱいだった。
「その……。この度は何とお礼を言っていいのか……。本当にありがとうございました。」
ナロが深くお辞儀をする。
「俺達は何もしていないよ。欲しかった正解かはわからないけれど」
「いえ、理由を確認することができてよかったです」
「ナロはこれからどうするんだ?」
「ステリアに戻ります。何をするか……。これから決めます。でも……」
ナロは涙を浮かべながら、言葉を詰まらせる。
「……自分には嘘はつきたくないですね」
手で涙を拭きながら、小さく笑って見せた。
俺は頷いて答えた。
「御二人はどうされるんですか?」
「俺は……さて、どうするかな」
自分でも苦笑いをしているのがわかった。
何をするのか。何をしたいのか。
「私はジン様に付いて行きますよ。同じような身の上ですからねっ」
*
2人してナロを見送る。
遠く見えなくなるまで、何度も振り返り、頭を下げていた。
「さっ。どうしましょうか、魔王様?」
エリスは無邪気に笑った。
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