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第22話 敗北

 会場に響く、震えた大声。

 近くにいる俺だけに向けたものではないような、そんな気がした。


「なぜ、自分から消えることを選ぶんですか? なぜ、反撃をしないですか?」


 エリスは続けてなぜ、と言いかけて止めた。

 他にも俺に言いたいことがある、そんな様子だった。


「そんな強い人間ではないんだよ、俺は……」


 目の前の小石を拾い、力一杯握りしめた。

 粉々になる小石を見ながら唇を噛んだ。


 俺はあの日から、いやあの日よりもずっと前から何も変わっていないじゃないか。


「それでも……。あなたは消えることを選ぶような人ではないです……。私はそう思っています」


 優しく、詰まる声が耳に残った。

 エリスは言葉を選びながら必死に伝えてくれたのだろう。


「ありがとう」


 きっとエリスには届いていない。

 俺の精一杯はたぶん。きっと。


「あと少しだったっていうのに……。優秀なセコンドを持ったな」


 大きくため息をつくと、グラファは俺を見下ろしながら続けた。


「まあ、ここでお前が消えてくれたら大満足なんだが、次の機会にでもしておこう。どのみち、この国でお前はうまく生きていくのは無理だろうしな。……優勝だけはさせてもらうことにするよ」


 鈍い音と共に、頭に激痛が走る。

 握りつぶした小石が、花火のようにチカチカと目の前で弾けて消えた。





 遠くの茶褐色にピントが合う。

 天井……。シミ。


 エリスとナロが傍から目をのぞき込み、良かった良かったと抱き合っている。


「痛った……」


 頭の後ろ、奥の方がジンジンする。

 グラファが言い放った後、俺は気を失って……。


「俺は負けたんだな?」


 ベットの上から聞いてみた。


 抱き合っていた2人が目を合わせ、下を向く。

 わかりやすすぎはしないか……。


 そうか。俺は負けたんだな。

 消えることはなく、負けたんだ。



 ガチャっとドアの開く音がした。


「目を覚ましたんなら、早く帰ってもらえないか?」


 武道祭のスタッフが早く立ち去るように急かす。

 大会参加時はあれだけ好意的だったはずだが……。


 今となっては、悪党というわけか。





 冷たい視線を感じながら、控室から会場を後にする。

 体は何とか動けるが、エリスの肩を借りて歩くのが精いっぱいだった。


「その……。この度は何とお礼を言っていいのか……。本当にありがとうございました。」


 ナロが深くお辞儀をする。


「俺達は何もしていないよ。欲しかった正解かはわからないけれど」


「いえ、理由を確認することができてよかったです」


「ナロはこれからどうするんだ?」


「ステリアに戻ります。何をするか……。これから決めます。でも……」


 ナロは涙を浮かべながら、言葉を詰まらせる。


「……自分には嘘はつきたくないですね」


 手で涙を拭きながら、小さく笑って見せた。

 俺は頷いて答えた。


「御二人はどうされるんですか?」


「俺は……さて、どうするかな」


 自分でも苦笑いをしているのがわかった。

 何をするのか。何をしたいのか。


「私はジン様に付いて行きますよ。同じような身の上ですからねっ」





 2人してナロを見送る。

 遠く見えなくなるまで、何度も振り返り、頭を下げていた。


「さっ。どうしましょうか、魔王様?」


 エリスは無邪気に笑った。

読んでくれてありがとうございます。

また立ち寄ってくれたら嬉しいです。

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