第19話 勇者グラファ
「始めっ!」
アナウンスが鳴り響き、最後の試合が始まった。
「旅人か……。お前はどこに行ってもそんなことをするんだな」
グラファは試合早々、俺に話しかける。
勇者に相応しい両手剣を持ち、装備も身軽で、無駄が無い。
機能的な身なりに加えて、銀の短髪とスッキリとした目鼻立ちが、”勇者”と印象付ける。
だが、おかしい。
目の前の勇者と会ったことがあるが、会話をしたことがない。
俺を昔から知っているような、意味深長な言い方が鼻につく。
見た目が20歳そこそこと、そんなに変わらないことが、よりそうさせるのだ。
「よくわからんが、俺は旅人で、あんたとは会ったことはない。無駄口叩かずにかかってこい」
「やっぱり、お前は”偽物”だ。そうやって嘘で塗り固めて生きてきたんだろ、今までも!」
――グラファは間合いを素早く詰め、剣を振るモーションに入った。
これぐらいの速さは経験している。大丈夫だ。
俺は、そう過信していたんだ。
魔道の力を纏っていた腕が痺れる。
大きな衝撃が俺を後退させて、通り越していった。
そんな衝撃を作ったグラファ本人は、汗一つかいていない。
何だよ、この力。こいつもカプセルを使っているのか?
「まあ、こんなところだ。すぐに逝かせてやるよ」
グラファは俺を殺しにきているのか?
武道祭は再起不能か、途中棄権するまで続く。
端からこいつは優勝の栄光や、賞金を目当てに試合に臨んでいない。
目的は、俺を殺すこと。
どこで目をつけられた?
俺を殺す理由は?
いくら考えても、答えは出てこない。痺れた腕に神経が持っていかれている。
「一つ聞かせてくれ。俺はあんたとどこかで会ったことがあるか?」
「今日初めて会った。俺は”ずっと会いたかった”がな」
「ずっと会いたかった? 待て、俺が何かしたのか?」
「質問は一つじゃないのか――」
グラファは怒りを込めた言葉を発すると、素早く距離を詰めてきた。
【 漆黒鎧】
俺は、 漆黒鎧で防御の体制に入るのがやっとだった。
素早い動きと、卓越した剣捌き。
観客は、グラファに味方をしている。
剣の振りに合わせて、歓声をも飲み込む。
「おいおい、守ってばっかりだな」
立ち止まり、グラファは見下すように小さく呟いた。
哀れみ、怒り。
なぜ、そんな感情を俺にぶつけてくるのか。
「一体なんなんだよ。意味がわかんねぇよ」
【 黒火玉!】
後ろに回避しながら、火の玉を打ち込む。
右手から放たれた黒い大きな火玉は、グラファを飲み込んだ。
消えてしまえ。
あんたの理由なんか知らない。聞くこともない。
早く終われ。
衝撃と煙がグラファを包む。
あれだけ騒がしかった観客は置物のように静かだ。
俺は審判に目を向けた。
もう終わりだろ、終わりにしてくれ。
審判は状況を確認するため、落ち着けと両手のひらを下に向けてジェスチャーをする。
カツカツと、靴が会場の石を叩く音。
目の前には煙を纏い、数秒前と変わらない男。剣を斜めに振り下ろし、埃をとる仕草。
「驚いたという感じか? そうだよな、”本物の力”を前にすると自分の力を疑いたくなる。自分は何者で何のために存在しているのかと」
静かになっていた観客が、グラファの姿を見るなり、大声を上げた。
うるさい、黙れ。
グラファは続ける。
「お前も一緒だよ、よくわからんカプセルによって力を手にした輩と――」
「黙れ!」
なぜお前がそんな話に口出しをするんだ。
俺があいつらと一緒だと。力を欲して、人格までも変わったやつらとか?
「さあ、来い。”魔王ジン”よ。まだまだ見世物は終わらないぞ」
グラファは冷淡な笑みを浮かべ、俺をそう呼んだ。
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