第17話 初戦
始めのアナウンスで、グライドが動き出した。
商人とは思えない身のこなしで剣を振る。
「その受けこなし、かなりの手練れと見える。君は何のために武道祭に?」
グライドが剣に交えながら言葉を放つ。
「あんたに聞きたいことがあってな」
俺は、わざとセコンド席へ後退しながら、剣技を受けた。
「ほう。聞きたいことか。試合中に聞くということなんて、よっぽどだな」
グライドは剣を止め、言ってみろと俺に視線を送った。
「ダグラという男と、彼女に見覚えはあるな? あんたがカプセルを渡したことは知っている。なぜ渡した? そもそもカプセルの正体は何だ?」
ナロに視線を誘導し、グライドを問いただす。
なぜ剣を止めたんだと、観客からは野次を飛んだ。
「ああ、ステリアで会った窃盗団か。覚えているよ、彼女もね。理由か……。それはね……、違う自分になる方法を教えたかったんだよ」
「なぜ、ダグラやナロに教えようとした?」
「別に誰でも良かったんだ。ただダグラが食いついた、それだけだ。弱い者は、人によく見られたいものだ。優しく、かっこよく、気前よく、ね。だけど、そんなものはストレスなんだ。誰もが1度は思ったことがあるものさ、”別の自分になれたらな”、”こんなの本当の自分じゃない”ってね。俺は手助けをしただけさ。ダグラが元々そういう男だった、そういう男に憧れていた、ただそれだけじゃないか」
グライドはボソッと呟く。
「君みたいに、強い人にはわからないと思うけどね」
「こっちは、お前がダグラに渡したカプセルのせいで厄介ごとに巻き込まれたんだぞ!」
「そりゃ災難だったな。私は商品を仕入れて、売る。……それだけだよ。それ以上も、それ以下もないよ」
グライドの武道祭に場違いな華奢な体と、濁った黒い瞳が俺を不安にさせた。
人を納得させるのに申し分ない話術と、的を少し外した回答。冷たく言い放つグライドからは、それが本音なのか嘘を交えているのか、知ることができなかった。正に、商人という感じだ。
グライドはカプセルの中身は教えない、ということなのか?
「誰から仕入れたんだ?」
「私は商人だよ。自分の不利益になりそうなことは教えない」
「じゃあ、力づくで聞くまでだ」
俺はグライドへ反撃に出ようとした。
その時、会場の誰もが、そして俺自身も想像もしていなかったことが起こった。
目の前の男が、片手を大きく挙げているではないか。
殺気はない。いったい何をしているのだ?
「ギブアップだ。こんな強い男に勝てそうもないからね」
グライドは審判に向けてそう言った。
そして、冷めた笑みを浮かべながら俺を見る。
「ということだ」
「――き、貴様!」
魔道の力を全身に込めた。
この際、試合などどうでもいい。
「まあまあ、そう怒るな。旅人ジン、君達には知る権利がある。試合後、控室に来るといい」
それだけを言うと、グライドはゆっくりと退場した。
試合終了のアナウンスを聞いている間、俺は怒りを抑えるのに必死だった。
*
あっけなく終わった試合の後、俺はエリスとナロを連れてグライドの元へ向かった。
「いやあ、参ったよ。剣が全く効かないなんて、これに頼っても負けは決まっていた」
控室で待っていたグライドはわざとらしく笑った後、カプセルを見せ、続けた。
「これは、ある方から譲ってもらったものだ。この武道祭で私がこれを使い優勝すれば、もっと注目を浴びる予定だったんだけどなあ。君と当たったのが、運の尽きだったよ」
「あなたはなぜ、ダグラさんにそれを渡したのですか?」
隣にいるナロは今にも泣きそうな顔をしている。
「ダグラは窃盗団のみんなを守りたいと言っていた。そのためには力が欲しいと。何かを変えなくてはいけないと必死な様子だった。私はただ説明した通り、カプセルを渡した。これを使い続ければ、自分の中にある理想の自分に近づけるはずだと。だが、彼が訪ねてくる度に、使用する量がどんどん多くなっている印象を受けたんだ。焦っているようにも見えた。1度にこんな容量を使う人を見たことなかったから不安になったよ」
「人格を変えてしまったということか……」
俺は口から思うがこぼれた。
俺の見たあれは、それほどに衝撃的で、人から化物に変わっていくようだったんだ。
「正直、私にもわからない。ただ彼が強さを求めていたんだ。君を、君達を守るために」
グライドはナロへと視線を戻す。
ダグラは自分の居場所を守るため、仲間を守るために、力を欲していた。それが自分の人格を奪い、理想とはかけ離れた結果となっていったということ……。
「そんな偽物の力を何であんたが持っているんだ」
怒り、哀れみ、憤り。
自分でもよくわからない感情に後押しされ、つい大声を出してしまった。
「”偽物”……か。私もこれを使おうとしたということはそうなのかもしれないな……。だが武道祭でも言った通り、その質問には答えられない」
「……あなたのせいで大切な人を失った人がいるのですよ」
エリスが固く閉ざしていた口を開ける。今にも泣きだしそうな顔からは、悲しみが見えた。
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