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第15話 アザゼム

 アザゼムに着くまで、俺達は自然と口数が減っていった。旅の疲れもあるだろうが、急な出来事に心の中にしこりができたような、そんな感覚をそれぞれが持っていたのだと思う。


 失踪する者が増えているというのは、あのゴブリンの仕業だったのだろう。道中で危険が迫ったのはその出来事のみだったし、襲われたというなら納得がいく。


「あの……。とても言いにくいことなんですが……」


 久しぶりにナロが話を始めた。俺も話しかけるきっかけを探っていたので助かった。


「どうしたんだ?」


「お金を落としてしまったようなんです……」


 俺とエリスが驚きの声を調和させた。情けない話だが、これまでの旅費は全てナロが払っていた。俺とエリスはお金なんてものを持ち合わせていない。


「心当たりはあるんですかっ?」


「トートを出るときまでは……。アザゼムまでの道中に落としたのかもしれません」


 マズいな。もうアザゼムに着いてしまった。引き返すにしても、お金がないと泊まることも出来ないし……。


 魔道か?

 それともエリスの魔法か?


 どちらにしても、気が引けるな。

 直接お金を作らなくても金目の物を作りだすとか……。


「何とかなりますよ。これまで頼りっきりだったので、ここは任せてくださいっ!」


 ナロを不安にさせまいと、いつも通り振る舞うエリス。


「そうだな、今日の宿は任せたぞ、エリス!」


「任されましたっ!」


 意外と何とかなるもので、人たらしのエリスにかかれば、宿のおじさんやおばさんから同情を買うことは簡単なことだった。けれど、宿以外にも食料の調達など、お金無しにどうにかなるわけではない。初めはうまく事が運ぶかもしれないが、そう何度も同じことを繰り返すわけにもいかないだろう。



「こうなったら、あれはどうです?」


「あれって?」


 エリスに何か策でもあるのだろうか。

 

「アザゼム中で宣伝しているやつですよっ!」


 エリスが言っているのは、アザゼム内で明後日開かれる”武道祭”のことだろう。

 8人が1対1で戦うトーナメントで、聞くところによると、年に1度の記念行事ということだが、最近では力自慢の強者が名乗りを上げなくなってきているらしい。開催日が明後日というのに6人までしか応募がなく、アザゼム中で宣伝を行っている、とのことだった。旅人やアザゼム外から来た者、大歓迎と書かれていた。


 優勝賞金が1万ゼニカで、参加費用はタダときた。

 タダなら参加者はいくらでもいそうなものだが、大会で負けた時の不名誉が怖くて、乗り気なやつが減っているそう。決勝までいっても負けたら賞金ゼロは、祭りとしては少し寂しい気もするが。

 アザゼムの大人はみんな口々に、”最近の若者は――”と話す。どこの世界でもそんなわかったようなことを言う連中はいるってことだな。

  

 そう、1万ゼニカがどのくらいかというと、大体100万円ぐらいのイメージかな。

 軍資金としてはまあまあ打倒なとこだろう。まあ、勝てばの話だがな。


「エリスが出場するということで!」


「えっ ジン様お願いしますぅ」


 エリスに少し冗談をかましたが、武道祭には参加することにした。

 アザゼム中が注目する祭りだ。有名になれば、お目当てのグライド探しのためにもなるはず。





 次の日――武道祭前日の朝、俺は受付に向かった。

 前日になってもまだ人が集まらないのか、事務局はそわそわしている。俺が参加する旨を伝えると、受付や、事務、代表者の者まで立ち上がり、魔王でも倒したのかというほど狂喜乱舞、拍手喝采だった。


「いやぁ、ホントありがとうございます。おかげで8人で行うことができます。毎年大変で、参加人数が規定に届かないと当日直前まで作業がかかるんですよ……。トーナメントはランダムなので、参加者へも当日までは知らせないようにしているんですが、少ないと6人にしたりですね――」


「もう8人決まったんですか。昨日2人足りないって話を聞いたんですが」


 受付の男は嬉しさのあまりに早口になっている。いらない情報まで言いかけたので、会話の隙間に滑り込んだ。


「そうなんです、ほんのちょっと前に参加者が決まりまして。予定通りに開催できて、ホントに良かったあ。いやあ、それもこれもジン様と、グライド様のおかげですよ!」


 グライド、その名をここで聞くことになるとは思ってもみなかった。

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