第14話 次の目的地
2日目は、第2目的地トートへも無事に着き、残すはアザゼムへの道だけになった。
1日目の店主の忠告もあったため、慎重に進んだため若干ペースが下がったが、それでも予定通りトートに着き、順調に事は進んでいた。
勿論、トートではエリスに酒を与えず、ヒヤリとすることもなく過ごすことができた。
お酒というのは実に厄介なものだ。エリスは宿に戻ってもフニャフニャしていたし、いつも明るく陽気だとしても、寝るまでひたすらにテンションが高いというのも考えものである。
何といっても、朝になったらすっかり忘れているっていうことがまた何とも……。
お酒には気を付けようと思った、異世界の1日だった。
「順調にいけば今日でアザゼム到着だな」
「はい。このままいけば、予定通りに到着すると思います」
時間を気にしながら旅をするのも今日で終わりにしたい。
歩き始めてからは、道幅も広くなり人とすれ違うことも多くなった。同じような身なりをした旅人や、馬車で荷物を運ぶ人。
遠くに何か見える。こちらの動いてるのに対して向こうは、止まっている?
大きく震わせた馬の声が等間隔に響く。
とすると、あれは馬車か。
ん、何か変だぞ。
馬の声が大きくなるにつれ、暴れている様子が目に映る。
周囲には黒緑の物体がいくつか。
ゴブリンだ。
城へ来たのと同じ、俺の腰ぐらいの背丈のゴブリン。
じっと、こっちを見ている。
様子を窺っていると、馬車の中からもゴブリンが出てきた。
小太りで他のゴブリンよりも一回り大きい。体には血をべっとりと纏っている。
「あのゴブリン達、何か様子がおかしそうですね……」
ナロが呟く。
勿論、ゴブリンの声は俺達3人には理解できない。甲高い声で叫ぶさまは、異様さを醸し出していた。
エリスにゴブリンの通訳をお願いをすると、いつものように杖をフリフリするが、首を傾げ困った顔をした。
「うーん、どれも聞き取れません。言葉じゃなく、ただの叫びのような……」
エリスが小太りゴブリン――親玉ゴブリンに話しかける。
魔法によって変換されたゴブリン語だ。
暫くすると、親玉ゴブリンから返ってきたまま同時通訳。
「人間……殺す……。お前らが悪いんだ、と……」
一言二言ゴブリンと会話をするが、まるで聞いてもらえない様子だ。
「あのゴブリンさんはかなり怒っているようです。ここは避けて通りましょう」
「避けて通るって言ったって、道はここしか――」
こちらの会話をぶった切り、ゴブリンがナイフ片手に走ってくるではないか。
親玉に続いて手下まで。
城の中にゴブリンを連れてきたのは、エリスのような魔法の類を使う者だった。その男は同じように言語変換を行っているような素振りを見せ、ゴブリンはそれを基に忠実に行動しているように見えていた。俺の見たことのあるゴブリンは、人の考えを理解し、行動に意味を持ち合わせていた。
このゴブリンはどうか?
何が原因かは知らないが、目の前の馬車で惨劇が起こったのだろう。血に染まり、人を嫌い、目の前の旅人に襲い掛かってくる。人と同じく、それぞれ性格や能力は異なると思うが、こんなにも違うものなのか?
「キハアアア!」
目の前に迫るゴブリンの叫びが耳に響く。
俺は、2人に下がっておくように指示し、一人で相手をする。
武器は違えど、一度手合わせをした種族。
油断はしない。
直線的な攻撃を行う癖を、前の戦闘で知っていたので、手下を軽く手玉に取ることは出来た。
親玉も力はあるが、ゴブリンそのものといった感じた。殺しはしないが、再び立ち向かってこないように、絶対的な力の差を見せつけた。
ゴブリンは、血の気だった目から、力が抜けたように見える。
親玉ゴブリンは泣いている。大粒の涙と甲高い悲鳴。
みんな親玉のところへ集まって心配している。
「商人を殺して……。なぜ……。私は……何てことをしてしまったんだ……私を殺してくれ……」
エリスは悲しそうに言葉を添えた。
やはり、彼は馬車の中の商人を殺してしまったんだ。
でも、いったいなぜ?
「俺にはできない。生きて償えと伝えてやってくれ……」
言葉を聞くと、親玉を連れてゴブリン達は道の脇に去っていった。
去っていく際、ゴブリンが言葉を発したが、エリスが通訳することはなかった。




