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第13話 酔い

 イラスに着くと、俺達は始めに宿を決めた。


 イラスは、小さな村ではあるけれど旅人に優しい、そんな印象を受けた。村というと、よそ者に冷たいイメージがあったが、会う人々は対応もしっかりしてくれる。身なりを見て旅人と判断し、また来てもらおうと考えているのだろう。

 ステリアもそうだったけれど、イラスも木造の家が多い。木を積んで出来たような外観が、家の中の香りを想像させる。

 俺のいた城がいかに異質だったのか、嫌でも考えさせられる。目をつけられるのは納得だ。





 イラスに着きゆっくりと過ごしていると、日も暮れ始めた。


「夕食でも食べに行きませんか?」


 ナロが提案する。確かに1日中歩いて、お腹は空いている。

 味のある外観の店を数店見て回り、一番賑わっている店に入った。


「こんばんはっ」


「いらっしゃい!! 3人ね、そこに座って!」


 エリスの声よりも大きく、そして野太い声が返ってきた。

 店主のおじさんにお勧めを聞き、注文した。

 あとは、インスピレーションで注文する。音の響きや、挿絵の力の入れ具合。

 聞いたことのないものの揚げ物や、見たことのない炒め物が、テーブル一杯に届いた。


「これって頼んだっけ?」


「はいっ! 私が頼んだんですよー」


「エリス、これって」


「――はい、お酒ですけど!?」


 エリスって同じくらいの歳だと思っていたけど、違うのか?

 女神だし、1万歳とか言われても、ふーんとしか言えないしな。


 歳を聞くのはやめておこう。

 

 キラキラした目で大きめの木のジョッキを見つめている。

 遅れて、俺とナロの飲み物が届くと、乾杯の催促をしてきた。


 コホンと咳をすると、エリスがしゃべりだす。


「では、旅の始まりと、出会いにかんぱーい!」


 店中に響く高い声に、店主もテーブルに寄って来た。





「ふえええ。酔ってしまいまひたあ」


 エリスは、揺れる置物のようにユラユラと揺れる。

 いつも意表を突く行動をするが、このエリスを見ると普段はマシに見える、不思議。


「酒弱いんだったら飲むなよなぁ、もう」


 俺は、1杯目の半分も口にしていないそれを、自分の方へと引き寄せた。


「だって楽しんですものお、ナロしゃまもそう思いますよねえ」


「え、ええ」


 ナロは、抱き着こうとするエリスをいなす。


「ジン様、そろそろ帰りましょうか?」


 酔っぱらいの上司のようなエリスの状況を考えて、ナロは俺にそっと話した。

 この子は出来る子ですわ。


 俺は奥にいる店主に、手で大きくバツを作って見せた。

 

「あーあ。あんたんとこの姉ちゃん、出来上がってるなあ」


「大声を出して、すみません……」


「いいよ、いいよ。元気があってよろしいってことで。ここに来る連中は、みんな似たようなもんだ」


 店主はガハハッと豪快に笑う。料理を美味しかったし、店が賑わっているのは、この店主の度量の大きさからくるものも多いのだろう。


「兄ちゃん達は旅人かい?」


「ええ。3人で旅をしていまして、アザゼムまで」


「そうか、そうか。気をつけなよ、アザゼムに行く途中で失踪する者が増えてるって話だ。まあ、途中で道に迷ったとかそんなんだろうと思うが、用心しときなよ」


 失踪者か。旅には危険が付き物だと思ってはいたが……。この忠告が当たらなければいいのだが。

 念のため、明日起きた時にはエリスにも一言伝えないといけないな。


 店を後にする頃には、辺りはすっかり暗くなり、風が優しく吹いていた。その優しさが、これからの旅の始まりを告げているような気がした。

 店主の忠告を聞くまではこの優しく吹く風が、心地の良いものとして認識できていたはず。今はなぜか、物語の分岐を告げるフラグのように感じる。

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