第13話 酔い
イラスに着くと、俺達は始めに宿を決めた。
イラスは、小さな村ではあるけれど旅人に優しい、そんな印象を受けた。村というと、よそ者に冷たいイメージがあったが、会う人々は対応もしっかりしてくれる。身なりを見て旅人と判断し、また来てもらおうと考えているのだろう。
ステリアもそうだったけれど、イラスも木造の家が多い。木を積んで出来たような外観が、家の中の香りを想像させる。
俺のいた城がいかに異質だったのか、嫌でも考えさせられる。目をつけられるのは納得だ。
*
イラスに着きゆっくりと過ごしていると、日も暮れ始めた。
「夕食でも食べに行きませんか?」
ナロが提案する。確かに1日中歩いて、お腹は空いている。
味のある外観の店を数店見て回り、一番賑わっている店に入った。
「こんばんはっ」
「いらっしゃい!! 3人ね、そこに座って!」
エリスの声よりも大きく、そして野太い声が返ってきた。
店主のおじさんにお勧めを聞き、注文した。
あとは、インスピレーションで注文する。音の響きや、挿絵の力の入れ具合。
聞いたことのないものの揚げ物や、見たことのない炒め物が、テーブル一杯に届いた。
「これって頼んだっけ?」
「はいっ! 私が頼んだんですよー」
「エリス、これって」
「――はい、お酒ですけど!?」
エリスって同じくらいの歳だと思っていたけど、違うのか?
女神だし、1万歳とか言われても、ふーんとしか言えないしな。
歳を聞くのはやめておこう。
キラキラした目で大きめの木のジョッキを見つめている。
遅れて、俺とナロの飲み物が届くと、乾杯の催促をしてきた。
コホンと咳をすると、エリスがしゃべりだす。
「では、旅の始まりと、出会いにかんぱーい!」
店中に響く高い声に、店主もテーブルに寄って来た。
*
「ふえええ。酔ってしまいまひたあ」
エリスは、揺れる置物のようにユラユラと揺れる。
いつも意表を突く行動をするが、このエリスを見ると普段はマシに見える、不思議。
「酒弱いんだったら飲むなよなぁ、もう」
俺は、1杯目の半分も口にしていないそれを、自分の方へと引き寄せた。
「だって楽しんですものお、ナロしゃまもそう思いますよねえ」
「え、ええ」
ナロは、抱き着こうとするエリスをいなす。
「ジン様、そろそろ帰りましょうか?」
酔っぱらいの上司のようなエリスの状況を考えて、ナロは俺にそっと話した。
この子は出来る子ですわ。
俺は奥にいる店主に、手で大きくバツを作って見せた。
「あーあ。あんたんとこの姉ちゃん、出来上がってるなあ」
「大声を出して、すみません……」
「いいよ、いいよ。元気があってよろしいってことで。ここに来る連中は、みんな似たようなもんだ」
店主はガハハッと豪快に笑う。料理を美味しかったし、店が賑わっているのは、この店主の度量の大きさからくるものも多いのだろう。
「兄ちゃん達は旅人かい?」
「ええ。3人で旅をしていまして、アザゼムまで」
「そうか、そうか。気をつけなよ、アザゼムに行く途中で失踪する者が増えてるって話だ。まあ、途中で道に迷ったとかそんなんだろうと思うが、用心しときなよ」
失踪者か。旅には危険が付き物だと思ってはいたが……。この忠告が当たらなければいいのだが。
念のため、明日起きた時にはエリスにも一言伝えないといけないな。
店を後にする頃には、辺りはすっかり暗くなり、風が優しく吹いていた。その優しさが、これからの旅の始まりを告げているような気がした。
店主の忠告を聞くまではこの優しく吹く風が、心地の良いものとして認識できていたはず。今はなぜか、物語の分岐を告げるフラグのように感じる。




