第11話 2人のおばさん
「こんにちはっ!」
「はーい! ちょっと待ってねぇー」
元気な挨拶に、陽気そうなおばさんの声が返ってきた。
玄関から中を覘くと、正面には2階に上がる木の階段が見える。
それと、会計用の小さな立ち机と、部屋を分けるドアがいくつか。
掃除の行き届いた、古い宿だ。
「はい、はい、はいっと!」
小走りでおばさんが、階段から降りてくる。
「あら、可愛いお嬢ちゃん達! お兄さん、両手に花だねぇ」
「そんな可愛いだなんて、お世辞がうまいですね、”お姉さん”!」
エリスがニヤニヤしながら、手をパタパタさせる。
おばさんが挨拶に使う、あれだ。
「あら、やっだぁ。お姉さんだなんて!」
宿のおばさんも手をパタパタ。
横から見てたら、おばさん2人の朝の挨拶だな……。
「今日の泊まるところ、探してるのかい?」
「いえ……。あの”お姉さん”に少し聞きたいことがありまして」
ナロがおばさんを見ながら、訪ねた。
こいつは、世渡り上手っていうやつだな……。
「いらない紙とペンはありますか?」
「ちょっと待ってなー」
おばさんはそう言うと、立ち机の上から紙とペンを持ってきた。
「ありがとうございます」
ナロは受け取ると、床に紙を置き、絵を描き始めた。
人の……似顔絵。グライドの顔だろう。
スラスラと器用に描き終わると、持ち替えておばさんに見せた。
「この人に見覚えはありませんか? 以前、ここに泊まっていたと聞いたのですが……」
「あっ、覚えてるよ。旅人って言うけど、荷物は少ないし、何か変だなとは思っていたんだよ」
『おおー』
俺とエリスは目を合わせた。ナロすげえ。
「この人のことを探しています。些細なことでも構いませんので、教えていただけませんか?」
「些細な、ねぇ……。そうそう、何日かいたけどあまりしゃべらない人でね。私から聞いてみたんだよ、なんで旅をするのかって。そしたら、”自分を変えたいから”ってさ」
自分を変えたい。まあ旅の理由は人それぞれだし、そんなに変な理由でもないか。
「あとは……。旅人にはいつも決まって、次はどこに行くの、と聞くようにしているんだけど。この人は、”旅は一旦終わりにします”って言ってたなぁ。”アザゼムに帰ろうと思っています”って」
「アザゼム?」
俺は、聞いたことのない単語に反応した。
「あんた、アザゼムを知らないのかい?」
「ええ、まあ……」
「この国の第2の都市だよ。この町の住民も、仕事を求めてアザゼムによく行くのさ」
アザゼムって都市にグライドはいる。
「ここからアザゼムへは、どのくらいの時間がかかるんですかっ?」
「そうねぇ。歩いてだと2、3日ってところかな」
結構な距離があるなぁ。
「お姉さん、どうもありがとうございましたっ! アザゼム行ってみます」
「いえいえ! 途中に小さな村がいくつかあるから、休息に立ち寄るといいわよ」
「はい! では、失礼しますっ!」
踵を返そうとした時に、おばさんが引き留められた。
立ち机に向かうと、色付きの紙を持ってきた。
「これ! この国の地図!」
指で、ここがステリア、ここがアザゼム、と丁寧に教えてくれた。
「アザゼムを知らない人達には必要でしょ?」
「お姉さんっ!!」
その後、エリスとおばさんは抱き合い、別れを告げた。
人たらしめ!
*
俺達は明日の出発に備えて、大きなリュックに、食料と水を詰め込み、旅に必要なものを調達した。
そして、俺がそれを背負う係。魔王になったはずなのに、荷物運びときたもんだ。
エレナとルナがこんな俺を見たら泣くぞ!
「おいエリス! こんな変な食べ物買うなよな!」
雑に袋詰めされた、五百円玉ぐらいの昆虫、のような……物体。
「食べたくなったので、仕方ないのですっ!」
キリッじゃねーよ。
「食料なんて、魔法で何とでもなるんじゃないのか? 俺の魔道の力を試してみ――」
「ジン様。これは、名物オオヨロイの揚げ物です。近くの森で育った成虫なので、鮮度は最高ですよ」
ナロは袋から一匹取り上げると、口の中に放り込んだ。
昆虫を揚げるな!
「ジン様も、エリス様もどうぞ」
「え、ここで食べていいの!? いっただきまーすっ!」
そもそも、揚げ物に鮮度が関係するのか、と思いながらも、エリスと同時に口の中へ。
はぁ、昆虫を食べることになるとは……。
え?
『うんまあー!』
俺とエリスは、オオヨロイの揚げ物を大量にお買い上げした。




