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第10話 旅人

「……わかりました」


 ナロは、ゆっくりと話し出した。



 ある日、この一軒家に一人の旅人が訪ねてきた。グライドと名乗った男は全員に、”違う自分になりたくはないか?”と言ってきたそうだ。

 人を超える力を手に入れられる、と。手下達は聞く耳を持たなかったが、ダグラは違った。ダグラはグライドに、詳しく話すように言った。グライドはカプセルを渡し、これを飲めば力が手に入る、今までの自分は捨てられると話した。

 それから数日、ダグラはグライドに会いに行くようになった。ダグラはグライドと知り合ってから、以前とは違い、より過激なことをするようになった。エリスを人身売買しようとしたように。



「……というわけです」


「やっぱり、あのカプセルはドーピングの類だったということか」


「そうだと思います」


 そんな危険なものが、なぜこんな田舎町に。


「ナロ様。そのグライドという方は、今どこに?」


「わかりません。数日の間だけ、ステリアに滞在していたようでしたので……」


「……そもそもなんだが、ナロはなぜ、この窃盗集団にいるんだ?」


 俺は嘘をつかせないため、視線を外さないようにした。


「私は元々、貧しい家庭に生まれました。幼い頃に両親を失い、生きていくために、盗みを繰り返して生活をしていました。そこでダグラさん達に出会い、仲間にしてもらって、今までに至ります。ダグラさんがグライドと会うまでは、少ないながらも盗みで得たものや、お金でみんな生活が出来ていたのです。」


 ナロは、少し止まり、そして続けた。


「……ただ、あの日から、ダグラさんは人が変わったように過激なことに手を出すようになって……。その頃からでしょうか、ダグラさんが機嫌の悪い時に、私は暴力を受けるようになったのです。私にとってダグラさんは、親の変わりのような……。そんな、優しい人だったのですが……」


「そのグライドというやつに会って、変わってしまったんだな」


「はい……」


 ナロの体の痕は、俺を騙すためではなく、ダグラによってできたものだったというわけか……。


「そんな……。ナロ様、可哀想に。そのグライドという方が元凶なのですね」


「……」

 

 ナロは黙って頷く。


「許せませんっ! グライドという方に会いに行きましょう」


「待て待て、エリス。どこにいるかもわからないんだぞ?」


 何も手がかりがない。


「ナロ様が可哀想ではありませんか。カプセルをなぜ渡したのか、聞くしかありませんっ!」


「エリス様、私もついて行ってもよろしいでしょうか?」


 ナロまで何言ってるんだ。


「ええ。もちろん! 善は急げ、ですっ!」


 エリスは歩き出そうとする。

 プンプンと音が聞こえてきそうな雰囲気を出す。


 やっと会えたと思ったのに、またどこかに行こうとするのかこの魔女は。


「おいおい、どこに行くんだよ」


「あれっ? どこに行くんでしたっけ?」


 はあ……。

 なんか厄介ごとに巻き込まれた気がするなあ。


「……俺も行くよ。そんな危険なやつのところ、女2人じゃ危ないだろ?」


「ジン様……」


 エリスは大粒の涙を溜めながら、俺を見つめた。


「――ナ、ナロ! グライドの顔はわかるか?」


「はい、覚えています」


「あとは、他に何か手がかりになるものがあればな……」


「ダグラさんから泊まっていた宿について、聞いたことがありました。行ってみれば、何かわかるかもしれません」


「とりあえず、聞いてみるか」


 壁の崩れた一軒家を後にし、グライドの泊まっていた宿に行ってみることにした。

 町の中心へと歩いていく。ナロを背負って来た時にも感じたが、あまり活気がない町だ。

 外で商売人が声を出している様子もなく、会うのは、リュックをパンパンにした旅人ぐらい。


 田舎町ということもあってか、宿が多く、あとは……そう、商店。

 店というよりも、”商店”がしっくりくるような、こじんまりとした建物がぽつぽつと並んでいる。


「ここです」


「宿の名前は……えっと、あった! ”おいでやす”」


 おいでやす!!


「っていうか、なんでエリスがこの世界の……じゃなくて! この国の文字が読めるんだ?」


「ジン様、これですよ、これっ!」


 エリスはニターと笑うと、右手に持つ杖を振って見せた。


「クソッ。なんで俺だけ読めないんだよ」


「ジン様も、いります?」


 エリスはまた杖を小さく振った。


「いらん!」


 強がってみたが、この先、不便だろうな。

 今は、メイド達に文字変換も聞けないし……。あとで魔道で試してみるか……。


 いや、やっぱりエリスに今度教えてもらうことにしよう。

読んでいただきありがとうございましたっ!

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