第9話 人を超えた末
「グオオオオオオ!」
高速突進で迫ってくる。
正気を失ったダグラのさまは、行動パターンからも見て取れた。
”禿”に反応しているところをみると、感情はまだなんとか保っている、というところか。
まずは、動きを止めなくては……。
高速突進をいなすと、ダグラは勢い余って少し遠くへ。
イノシシだ。こいつはイノシシ。
イノシシ……。
そうか!
数秒だけ動きが止まる瞬間がある。
それは突進が失敗した時。
対象を視界から外したと同時に振り返り、俺に焦点を合わせる。
赤く光る瞳が対象をとらえたときに初めて動き出す。
試しにやってみるか……。
「グオオ……オオオオ!」
近づいてくる、近づいてくるよー。
ギリギリまで……。
今だ。サッと半身になって、いなす。
ダグラは、勢いのままに進み、対象を見失ったことに気付き、スピードを落とす。
そう、止まったところで。
【 火花の舞】
爆発を全身に見舞ってやった。
「グアッグアア……」
「ん? どうした?」
攻撃が効いただけか?
いや違う。ダグラの様子がおかしい。怯えるように耳を塞ぐ仕草をする。
爆発の音や、色に怯えているような……。
そうか……。
火花の舞を受けた時の恐怖の感情がまだ残っているのか。
ダグラは、人間の感情を少し持ち合わせた化物になってしまったのだ。
可哀想だが、せめて最後だけは一瞬で終わらせてやろう。
俺は魔道の力を込めて集中する。
風が少し吹きだし、辺りの空気が変わると、昼間の明るい空が次第に暗くなっていく。
厚い雲が現れて、頭の上を覆い隠す。
どちらかが勝ち、どちらかが負ける。勝ったやつが強く、負けたやつが弱い。どこの世界でも同じことだ。
【 雷鳴】
ダグラに向かって、頭上から雷が一直線に落ちる。
雲から落ちる光は鋭く矢のように刺さった。
「ぐああああああああ!」
ダグラは悲鳴をあげ、膝をつく。辺りは焦げた臭い。
ダグラの体は回復が間に合わないのか、白い煙を全身から出している。
「ま……だ……だ」
「――あんた、まだしゃべれるのか!」
「……まだ……ぐはっ」
立ち上がろうとするが、吐血するダグラ。
赤色を失った目が見えた。
「いやあああああああ」
ダグラは背中に虫が走ったかのように、全身を反り、体を小刻みに震わせた。
膨張した体から大量の血が噴き出す。
ダグラの周りには血が池のように溜まっていく。
これは 雷鳴で負った傷ではないはず。
全身の皮膚が裂けたような……。
そのまま仰向けになって倒れた。
俺は、何が起こったのか、確認に近くに歩いていく。
『え? 兄貴?』
手下達が急いでダグラの方へ走っていく。エリスとナロも後をついて行く。
「兄貴ィ! 兄貴ィ!」
袋を片手に持った男がダグラに近づく。
血で染まったダグラを揺らすが、反応がない。
「死んでるわ」
ナロがボソッと言った。
「貴様、よくも……」
男はダグラから手を離すと、泣きそうになりながら、俺を睨みつけた。
他の手下の視線も俺に向いている。
「この人のせいじゃないわ」
ナロの言葉に、ホッとしている自分がいる。
直接手をかけていないだけで、他人事として処理しようとしていた。だけど、内心怯えていたんだ。
ナロがゆっくりを続けた。
「攻撃を受けた時はまだ意識があった……。その後になって突然、体中が裂けていった。体が耐えられなくなったのよ、”それ”に。あなたならわかるでしょう?」
「――クッ」
男は唇を噛みしめる。
「あんた、傷を治せるんだろ? 生き返らせてくれよ!」
男はエリスの方をすがるような目で見た。
「……死者を生き返らせることは出来ないのです。……すみません」
エリスは下を向いたまま、目を合わせることなく答えた。
『ひえああああああああ』
手下達は怖くなったのか、一斉に逃げ出した。
「――お、おい。お前ら!」
残ったのは俺を含めて4人。
エリス、ナロ、袋を持つ男、そして俺。
*
どれくらい時間が経っただろうか。
男が死を受け入れたように、静かに話し始めた。
「”これ”はもう必要ない。ここに置いていくから、捨てるなり、使うなり好きにすればいいさ。じゃあな、兄貴は返してもらうぞ」
男はそう言うと、カプセルの入った袋を地面に置き、仰向けになったダグラを起こすと、左腕の中に頭を入れて、引きずりながら歩いていく。
「この袋の中身。カプセルは一体何なんだ?」
「……」
男は答えずに帰っていった。
*
雲も消え、スッキリと晴れた空にポツンと3人だけが残された。
男の帰った後に、血の足跡が残っている。
「ナロ、あのカプセルが何なのか知っているのか?」
「はい。私の知っていることはお伝えします」
「私にも教えてくださいっ!」
エリスはまっすぐにナロを見つめた。
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