プロローグ
見慣れた光景。
玉座に座っているのは、創造主アトラス。
立派な髭を蓄えた老人。綺麗な白の衣に身を包んだその姿は、創造主に相応しい。
何もかもを見透かしているような眼差しが緊張感を高める。
いつものように、俺を含めた4人はこの場に集められた。
「勇者ジンよ、最後に言うことはあるか?」
「……」
俺は何も答えられなかった。
「では、準備は良いな?」
低い声で創造主アトラスはそう言うと、立ち上がり、目の前に立っている俺ら4人に片手を向けた。
眩い光が目の前を包みこんだ。もうすぐ世界が変わる。
*
巨大な力ゆえに、退屈に嫌気が差した、魔王ベルト
人々の幸福を願い、見守ることを選んだ、女神エリス
膨大な知識をもち、すべてを知りたいと望む、魔女リダ
ここに集められた3人。その理由。
そして俺の理由は、”新しい世界で旅をしてみたくなった”だ。
”勇者”である俺を含めた4人が、創造主アトラスの提案を受け入れた。
”4人の内の誰かと入れ替わり、異世界に行く”
それぞれの世界で頂点を極めた4人が、自分ではない他の者となって、同じ異世界へと旅立つ。
この提案の唯一の条件は、ここにいる4名以外に入れ替わったことを口にしないこと。
もしも口にした場合は、地獄の苦しみを受け、消滅してしまう。
創造主アトラスは言った。違う世界に下手に干渉するのは楽しくなかろう、と。
そして、俺の入れ替わる相手が決まった。
俺が引き当てたのは”魔王”だった。
勇者から魔王に生まれ変わり、異世界での旅が始まる。
いや違う。全く違う。
なぜなら、俺は”勇者”ではないからだ。
夢と現実の狭間のような空間で、必死になって何度も抵抗した。
何かの間違いだ、俺は勇者なんかじゃない、と。
創造主アトラスは、これを謙遜と受け入れた。
候補として選ばれた時点で、俺には拒否権はなかったのだ。
他の3名はきちんとした理由があり、異世界へ行くことを承諾している。
俺はどうする?
俺はどうすればいい?
繰り返す議論を無意味に感じ、そして受け入れた。それっぽい理由を加えて。
そうして俺――大橋ジン、ただの高校2年生――は、創造主アトラスの勘違いで魔王となり、異世界に行くことになった。
読んでいただきありがとうございます。これからもどうぞお付き合いください。