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超能力者一年生!  作者: アルリア
第三章
23/26

超能力者は時を超えて巡り会う

 軍の滑走路にヒロたちはいた。

 時刻は夜の九時。


「さあ。我々は今から弩国へと渡ります。生き延びたいものはこの輸送機に乗ってください!」

「君パイロットはどこだね?」


 ヒロのテキパキとした様子に慌てて初老の紳士風の男が尋ねた。

「そういえばそうだ……パイロットの方はどこにいるんだ?」


「パイロットは俺です」

「は……?」


 軍にいたときこっそりやり方を覚えておいたのだ。


「いや、やはり信用できん。私は仁村大臣の知り合いなんだ。私たちは行かない」

 男と家族はこの国に残るようだった。


「どんなコネがあっても無駄ですよ。能力者はもはやこの国に居場所はありません。強大な力を持つ能力者や隠れることに特化している能力者なら生き延びるだけなら可能でしょう。ですがあなたがたはそのどちらでもありません。私は前者の強大な力を持つ能力者ですがこの国にいるよりはるかに輝煌国に渡った方がいいと判断し亡命を決めました」


 ヒロの言葉で全体が輝煌国亡命に揺れる。


「それにどうするんです? このままここここにいると能力者はみんな死にますよ。これだからなにもできないやつは嫌いなんだ。その癖プライドだけは一丁前ときている。自分はいかにもまともですみたいな面してさ。もうくるところまできているんですよ。みなさんが知っていた世界は終わったんです。平和が優しく覆ってくれていた醜悪な真実が露出し始めたんですよ。まだ目が覚めないんですか?」


「だが私は軍の航空科に所属していたんだ。レーダーに捕捉され、撃墜されてしまうかもしれない」


 そうか。レーダーが。などと群衆がざわつく。

 これは疲れるからやりたくなかったんだけどな。と思ってからヒロは再度話し出す。


「レーダーに映らなければいいんでしょう? レーダーに映る仕組みはロケットエンジンの熱です。ならばエンジンを探知不可能なレベルしかふかさなければいいわけだ」


「なに…?」

 何を言っているんだこいつというような顔でおばあさんがヒロを見る。


「私の超能力でみなさんを乗せた輸送機を飛ばします」



 ◇



 ゴオオオオオオオオオオオオ…………

 気の利いた場内アナウンスは流れない。

 乗員200名を乗せた輸送機は上空2㎞を弩国に向かって順調に飛んでいた。


「今の俺なら巨大ロボも実現可能なのか……」

 乗るなら白いヤツがいいだろうか。赤いヤツがいいだろうか。ただの操り人形だけど。あ、懐かしいヤツを思い出した。そんなどうでもいいことを考えるくらい今のヒロには力の余裕があった。


 これが世界最高峰の念動能力者の力だった。

 100kgしか持ちあげられなかった二年前が懐かしい。


 操縦席に座る必要はない。計器を軽く確認するだけだ。

 経路は携帯端末で確認できる。

 エリの様子が気になりヒロは操縦室を後にした。自動運転でも操縦室を無人にするなど考えられないが念動力で飛ばしている今そんな芸当もできるのだ。


 カルを失ったショックは大きいはずだ。

 あんな風に住んでいた街を燃やされ、収容所に捕まるところだった。それに知り合いや友達も何人も連れていかれるか、殺されるかしたはずだ。


 国から追われる。確かだと思っていた地盤が易々と崩れる。

 皆が不安そうな、何も信じられないような、信じる基準が粉々になってしまったような顔をしていた。

 それに飛行機内はとても寒かった。レーダーに捕捉されない最低限の熱源にするために元航空部隊の人と協議しエンジンの機能を抑えた結果、暖房をつけるわけにはいかなくなったのだった。

 協議というかほとんど彼の要求だったが。


「みんな。安心してください。輝煌国では超能力差別はありません。超能力者によって生きやすい国になっています」


 阿腹がみんなに向けて喋っている。


 しかしみんなはさらに寒さに苦しんでいた。

「空調が効いていない。流石に寒すぎる。なんとかならないか……」

 ヒロの呟きを聞いてそれに答える者がいた。


「私の能力で熱を発することができます」

 先ほどのヒロの輸送機に乗ると決意を最初に表わしてくれた紳士だった。

「私は風を発生させて夫の熱を飛行機内に行き渡せることができます。みなさんの寒さを和らげたいんです。お力になれませんか」


 奥さんと思われる女性が言った。


「それはありがたい。是非お願いします」


「ふふ。気の置けない友人たちぐらいとの場でしか役に立たなかった能力がみなさんのお役に立てるようでなによりです」


「核爆発を起こすような力は今は不要ですよ。本当にありがたいです。これでみんなも凍えずに済みます」


 エリの様子が心配だ。見に行こう。カルを、自分の大切なパートナーを失ったことのショックは大きすぎて彼女が受けとめるには身に余るはずだ。

 そしいてただでさえ状況が状況なんだ。

 その幼い子のためにヒロは休む間もなく動き出した。


 シートに力が抜けたエりがちょこんと座っていた。うつろな目で焦点が定まっていない。

 現在というものが理解できないような医学用語の亜混迷状態のようなエリの状態にヒロはとてもかわいそうに思った。

 じいさんが心配そうな顔で近くにいた。さっきから持ちうるすべてのことをやった後なのだろう。ヒロが現れるとすがるようにこちらを見た。

「じいさんもエリも無事でよかった」


 じいさんの腕をポンポンと触りながらヒロは再会を喜ぶ。

 どうしていいか分からないじいさんはヒロが来たことで多少安心したようだった。

「さっきからずっとこんな様子なんだ。カルも見当たらんしもうなにがなんだか。この国はわしらをどうしようっていうんだ」


 早口でじいさんはまくし立てる。

 カルートがいない。機内のO波は超能力者が大勢いて乱れていたがヒロの鋭敏なセンサーでもエリからO波を感じなかった。

 ヒロはじいさんの肩を持ち、

「大丈夫だ。俺が責任を持ってみんなを保護することを約束する」


 と言った。

「カルはおそらく……」

「そんな……なんとむごい。なんて残酷な仕打ちを……」


 じいさんは言いようもない感情に言うべき言葉が出てこなくなった。じいさんの顔が歪む。

「エリ……」


「うああああああ!!」

 エリは甲高い悲鳴を上げた。

 そして自分の


 ヒロはエリをしっかりと抱きしめ、自分の胸に押し付けた。エリを世界のありとあらゆる脅威から守るべきだったとヒロは遅く痛感した。もう遅いのだがせめて少しでも彼女をヒロの腕で守るように覆うのだった。


「うぁ……ぁぁぁあぁぁあああああ!!」

 息も切れ切れに切実に彼女は暗闇の中で叫んだ。

 機内がパニックになりかねないとヒロは冷静な頭で考えた。

 しかし、それがなんだと言うんだ。彼女は今叫びたいんだ。叫ばせてやりたい。

 機内がパニックになろうがしったことか。


 つー……とつららから水が垂れるようにヒロは冷静になっていった。


「アニキ……カルがね。死んじゃったの」


「カルはお前を守れて幸せだったと思うぞ」


 ヒロはエリを抱きしめた。超能力者に対する迫害を止めなくてはならない。ヒロは強くそう感じた。


「辛かったな。エリ」


「う……うわぁあああん!ああああっ」


 エリは乗客のことを思いだしパニックにならないようにヒロの胸に顔を埋め声を殺した。


 ヒロはエリが泣きつかれて眠るまでそばにいた。

 その間も順調に輸送機を飛ばし続けたヒロの力は人間の枠を突き抜けすぎていた。



 ◇



 眠るエリを抱きかかえたヒロに、操縦席に座らせて万が一のために目視をしてもらっていた阿原から通話が入る。


『軍への手配は済んでいます』


 元中国に位置する超能力者大国“輝煌国″。

 世界中から現在能力者が集まりつつある。


『あなたは特別待遇ではありますがさすがに首都の滑走路への着陸はできません。あなたの能力の強さを警戒されたのでしょう』


 そう。この戦争状態で戦争相手であるライロの人間をいきなり自分の懐深くまで入らせるなどありえないことなのだ。


 現在世界は人間同士での争いが起きている。

 超能力者は無能力者を憎み、無能力者は超能力者を憎んだ。

 大概の争いは資源の不足から起きる。

 資源が世界に満ち足りていて、不足しすぎなければまず火種は発生しない。

 そして争いが進行する原因はお互いを理解できないためだ。


 何しろ超能力者は現れ方が急すぎた。

 無能力者もそして超能力者もいきなり現れたその能力にどうしたらいいのかわからなかったのだ。少なくともヒロはそう考えている。

 文明の急速な変化に人類が適応できず、数々の過ちを犯したように、超能力という変化にまだ人類は適応できていないのだった。


 あの時、ヒロと未玖珠は世界を超能力者でいっぱいにしようとした。

 世界をむちゃくちゃにしたかった。

 無理解がつらかった。だから仲間が欲しかった。

 だが結果は2人と68億人という構図が1億人と67億人という構図になったのだった。

 仲間が単に増えたと喜んでいいのだろうか。


 そうなると、俺たちは世界最悪の大犯罪者だな。

 ただ、あの時は申東赫に超能力者に変化させる化学物質の散布を邪魔された。


 あの時、未玖珠は最後までやったのだろうか。

 それとも失敗で終わったのだろうか。

 いや、ここまで世界に超能力を持った人間が現れたことを説明するには実行を考えるしかないのかもしれない。

 もし未玖珠がそれをやったのなら。いやそれでも……


『ヒロさん』


 阿原の声が俺の耳に届く。


『輝煌国に入りました』

「分かった。……何もしない時間があるとネガティブなことばかり考えてしまうな」

『なにか言いましたか?』

「いや、これから忙しくなる。ここに乗っている人たちの面倒を最後まで見たい」

『さすが、能力者に対する気持ちはとてもあるみたいですね。一能力者として感謝しますよ』


 ヒロ達は弩国に入り、今迄から考えるとありえないくらい歓待された。

 この国では超能力者がまさに人権を得ているのだ。

 素晴らしい歓待ぶりにヒロが連れてきた人々は他国だというのにようやく人心地つけた。

 あらゆる包括的な制度が輝煌国にはあった。

 能力者に対する法整備が一番進んでいたし、能力者への優遇制度も全世界で一番多い。

 この国では超能力者が差別されることはない。

 経済も現首相になってから大分よくなったようだ。


 大通りは通勤や通学の人々で溢れていた。

 サラリーマンが走っている。

 と、地面を駆けていたサラリーマンが地面ではない空中を踏みしだき、そのまま駆けていく。

 それも一人や二人ではない。

 大勢の人間が宙を浮き、通勤していた。


 髪を染め、バスケットボールを持った男が人ごみをすり抜けるようにして進んでいる。いや、すり抜けるようにして、ではなく人の体を自在に通り抜けている。時に電柱や店を通り抜けて進んでいた。


 作業着姿の男が窓を拭いている。それは普通の光景だ。しかし、ビルの屋上でビルを拭く人が乗るゴンドラの紐を他の作業員が手で持っていた。しかもたった一人だ。

 汗すら流していいない。


「オーライ。オーライ」


 ビルを拭く人が屋上のひとに呼びかける。

 それを聞き、垂らしたり、引き揚げたりして高低差を調節する。

 この国では超能力者が、かつてその力ゆえに迫害されていた人間たちがお日様の下でどうどうと生きている。


 現首相が無能力者の他国から結ばされていた弩国の国家予算の百倍の額の賠償金と何十種類の経済制裁を科した条約を破ったのである。

 国民は経済の上向きと能力者の誇りを取り戻したことで沸いていた。


 ヒロがなにかするまでもなく能力者の受け入れ態勢は大分整っていた。

 衛生状態が悪い二番街の住人たちにとっては清潔な健康保障制度にとても驚いてた。

 お腹いっぱいに食べられることが久しぶりな彼らはそれでもう喜んでいた。


「いままで疑っていてすみませんでした……あなたは英雄です」

 などと態度が軟化を通り越して英雄扱いにまでなっていた。


 能力者のために雑用を進んでこなした。

 ヒロがこの国で役立つのでその代わり能力者の地位の向上を、という交渉をする必要もなかった。

 そのためヒロは自分の力を輝煌国に喜んで貸すことにした。


 爆撃で建物が破壊されており、何千人も撤去作業をしなければならなかったのだが、ヒロが瓦礫運びをすればその数千人分の働きをすることができた。

 さらに『災害』が輝煌国に味方したということで、国民の士気はとても上がった。

 世界中で迫害されてきた能力者が集まっただけあって結びつきも大分強いようだった。


 ヒロは傷ついたエリの傍にできるだけいることにした。

 エリの心が回復するように務めた。


 そんな日々が続いた。

 ヒロはエリが幸せになるために学校に通っても良いだろうかと思い悩んだり、エリから学校に通いたいと言い出さないだろうかと思ったりしたが、あれ以来エリはうまくコミュニケーションできないようになっていた。

 カルートがエリの気持ちを増幅し表現していたのだろう。そのカルートを失い、エリはうまく自分の気持ちを表現できなくなったようだった。


 さて、寄り道を大分したけれど当初の目的を果たそうと思う。

 この国に入って数日が経ったころだった。

 新聞を読んでいた時だった。

 ヒロは驚きすぎて死ぬかと思った。


 未玖珠がそこにいたのだった。

 彼女は輝煌国の最高権力者になっていたのだった。

 ヒロと別れてから12年が経っている。今未玖珠は28歳なのだろう。

 当時の彼女のイメージしかないからその変化に少し戸惑ったが、ヒロは新聞の前で高揚した。

 なんてこった。

 未玖珠──夢が叶ったんだな。国を手に入れたのか。おめでとう。

 く

 そうか。未玖珠はちゃんと生きていたんだ。この国で能力者達のために全ての力を使っていてくれていたんだ。

 確かに政治家のようなスーツを着ていたが希少な宝石を想起させる雰囲気はそこに残されていた。

 超能力者のアスリートのことや、超能力に関する法律など、新聞はさらに多くの事を教えてくれた。


 新聞を握る手が震える。体が震える。


 未玖珠はその地位をフルに活用して超能力者に有利な法律を国会で通し続けたようだった。

 彼女の映像や、新聞記事を貪るように漁る。


 かつて彼女に国会に潜りこむのに付き合わされたあの時にみた光景そのままに理解の範囲外にいる政治家たちの中に彼女が立ち、答弁しているの映像を見た。

 古い映像だ。四年前。

 若き演説家。という見出しだ。


 このころの映像では国会での乱闘に彼女も参加していた。

 超能力で国会がめちゃくちゃになったので、国会議事堂敷地内では能力使用禁止になった。


 今は彼女はもう乱闘などしない。

 さながら戦国時代のように気に入った土地を自分の物にし、好きなものを自分のものにするため息の出る女王がそこにいた。

 ルックス。雰囲気、まったく完璧に成り立っているなおい。


 これまで散々な目に遭ってきたんだ。これから幸せになってやる。

 いや、もう既にそれは約束されたようなものではないか?

 ここが未玖珠の国ならばヒロはもう特権階級の仲間入りだ。


「ヤッターーー!」

 ヒロは両手を上げて喜んだ。

 部屋の外にたまたまいた阿原とエリがそんなに喜んでいるヒロを知らなかったので、何事かと思っていた。


「アニキがそんなにはしゃぐの初めて見た。何かあったの?」

「? もともと俺はけっこうテンション上がったときはこんなもんだけどな? そうじゃなかった?」

「えー? 今日にアニキは10歳は若返ったみたいだよ」

「いや、今俺18歳だから10歳若返ったら8歳になるんだけど」


 確かに、二年前から色々な辛いことがあってすっかり笑わなくなっていたのかもしれない。

「新聞にずっと探していた友達がいたんだよ」

「誰?」


 エリがテーブルの上の新聞を見た。こういう時カルートがいつもエリの動きを真似していただけにそれが思いだされ、見ているだけのヒロでさえ悲しくなる。エリの痛みや悲しみはそんなもんじゃないだろう。


 あれからエリはヒロによく甘えてくる。今もエリはヒロにくっついて体を預けている。

 俺たちは悲しいことが多すぎたな。

 ヒロはエリの頭に手を回した。


「ほら、この人」

 ヒロはテレビにも丁度映っている未玖珠に指をさした。


「すげーー! テレビに出てる! すごい綺麗な人だ!」

「ああ。すごい綺麗で外見以上に中身がすごいやつだよ」

「首相って……この国で一番偉い人じゃん! アニキが一番偉い人の友達ってことはオレたちもその仲間にしてもらえるんじゃないの!?」

「あはー。そうだよ! ははは。同じことを考えているな。エリ。俺たちこの国で一番偉くなれるぜ。エリは一番上等な学校入れるぞ」

「じいちゃんに一番いい車買ってあげれるかなぁ! マッサージチェアに! ゴルフクラブも!」

「ははは。ゴルフ場ごとプレゼントできるんじゃないか?」

 エリを学校ではたっぷりえこひいきさせてやろう。

「俺はそうだなぁ……」

 専用のビルは持ってたけど、あの頃できなかったことがしたい。

「そうだな。超能力者を集めてのスポーツ大会とか開きたい。あとはみんなで気兼ねなく、大腕振って遊び出かけたい」

「あー……アニキそれいいね」

 エリも俺もそんなことできない人生を送ってきたからそれのすごさが分かる。


「よし、一筆書くか!」

 メールだけど。

 今まで普通の人たちが手に入れているものが俺たちは手に入らなかった。それが手に入ると分かり、エリも俺も胸から湧き上がるような嬉しさがあった。

 なんだかんだでみんな、俺も含めてこの良い状況が突然手に入った時と同じように突然、消えてしまうのではないかと思っていたのである。

 突然失ってもがっかりしないように。

 俺の気の抜き用を見て、エリもじいさんも安心したようである。


 だが、半年経っても返事が返って来ないのである。

 や、やべー......。


 エリが悲しそうな顔をしている。

「い、いやこれはだなエリ......」

「いいんだアニキ。オレももう大人になったんだよ。あれはオレを元気づけるための嘘だったんだよね......。いいんだよアニキ。ありがとう」

 い、いやだ。そんな苦笑い的なありがとうは......


 実際貴族のような生活とはいかないが、かなり良い暮らしができて、こんなやりとりができるくらいの余裕がある。余裕があるって素晴らしいなぁ!


「でもすごくありがとうアニキ。全部アニキのおかげ。サイコーだよアニキは」

「そうじゃの。わし等はこの生活ですら今までなら信じられん。こんな良い国があるとは知らなかった。ヒロが連れてきてくれなかったらわし等は今頃……」

 二人は想像にぶるっと震えた。


 うーん。どうにかして未玖珠と連絡が付かないだろうか......。直接会いに行こうかなぁ。でももしかしたらもはや俺のことなんて忘れているかもしれないしぃ。

 うーん。どうしたものか。


 半年経っても返事が返ってこない。

「どうしよう……」


「アニキが落ち込んでる……」


 ヒロの落ち込みぶりはけっこうすごかった。


「会いに行くのが怖い……」

「怖い? アニキが?」


 エリは驚いているようだった。

「なんだ? 俺だって怖いことだってあるんだぜ?」


「アニキがずっと探していたのってこの国の首相だったんでしょ? それなのに会うのが怖いの?」


「だから怖いんだよ」


「オレとじいちゃんもついていくよ!」


 エリがヒロを励ますように言った。落ち込んでいるのを元気づけようとするように必要以上に明るくしようとしている。

「阿原も誘ってくる!」


 そう言うとエリは阿原を誘いに行った。たまたま家には阿原が来ている。

「阿原ーあのさーこの日なんだけど──」

 エリの声がヒロの耳にまで届いていた。


 ピクニックじゃないんだから……

 しかし、ヒロが弩国首相と友達だという事を誰も疑っていない。


 よ、よし。とりあえず、会いに行ってみるか。

 もはや首相だもんな。失礼をしなければいいが……。


 議事堂前は多くの人でにぎわっていた。

 しまった。今日は選挙の日じゃないか。

 なんて日に来てしまったのか。


「あ......あの首相に会いに来たんですが......」


 首相の親衛隊に話しかけた。親衛隊というのは首相の直属の軍人の部隊のことだ。

 門の前にいる彼らは伍長ぐらいの階級だろう。


「なんだ、お前?」

 首相に会わせろだってよ。と一緒にいた親衛隊の二人があからさまに笑った。


「私の名前は中居ヒロです」

 特に余計なことはつけ加えなかった。これで駄目なら、何を言っても駄目だろう。なにしろ特に用事があるわけではないのだ。


 少しの問答のあと、取り次ぐだけなら取り次いでもらえることとなった。

 この取り次ぎも、未玖珠本人には当然行かない。未玖珠の前の前の前で止まるだろう。

 ヒロと未玖珠の間には長い時間と、長い身分の違いが広がっていた。もはや超能力者はヒロだけではない。


 彼女はあの時彼女の話を聞く人間が必要だったのだけれど、もうそれは俺じゃなくても良いはずだ。


 あの時は俺しか聞いていなかった話を今や大勢の人間が聞くようになった。


 いつからだろう。あんなにも使いたくなかった敬語を特に抵抗なく使えるようになったのは。

 いつからだろう。自分を特別な存在だと思えなくなったのは。

 いつからだろう。なにもかも諦めたように生き始めたのは。


 ヒロが訪ねてきたということを伝えに行った親衛隊員戻ってきた。

「お前の名前は伝えた。しかし、取り次がれることはない。お引き取り願おう。だいたい俺たちですら会話することもできない御人なんだ。徒手空拳のどこの誰とも知れぬ輩にお会いになるわけがないだろう」


 そうか。


「残念だったね……」

 絶句しているヒロをエリが慰める。


「帰るか? どこかに寄ってからにするか?」

 じいさんが言った。


「うーん。今日はパレードがあるみたいですし、それを見て行きませんか?」

 四人は阿原のその提案を採用した。


 大道路には警備や人々が二時間前だというのに、もうたくさんいた。


 せめて彼女を生で見てみようと道路で待った。



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