6話:清掃者
全員が大きな鼓動を感じだ。
それは、聖剣から発せられた鼓動だ。
それは、聖剣が祐樹を持ち主として認めた鼓動だ。
それは、聖剣が持ち主を見つけて歓喜した鼓動だ。
その場にいた全員が、その鼓動が意味することを直ぐに理解した。
「これが…、俺の剣か…。」
祐樹は聖剣を掲げ高揚している。
祐樹自身、聖剣に認められたと感じたのだろう。
「では、祐樹殿…いや、勇者殿。これから起こる大厄災を頼みます。」
サビエロが頭を下げ、3秒。頭が上がる。
「では、次の者!鑑定をっ!」
そう言われて、立ち上がる者はいなかった。
先程の勇者のやり取りをみて、少し怖気付いてしまった。
「ん…。では、そこの者前へっ!」
サビエロは視線で指名する。
その視線の先にいた者は目があったまま固まっていた。
「時間が惜しい。早く鑑定石の前へ!」
「は、はい!」
もう一度、促され我に返り立ち上がる。礼暦錬だ。
礼暦錬は硬い動きで、鑑定石の前へ歩いて言った。いつの間にかナンバ歩きを習得していた。いや、ただ手と足が一緒に出ているだけだ。
「では、鑑定を。」
「は、はい…。」
礼暦錬は皆がしていたように、鑑定石に手を乗せて光に包まれる。
「能力の確認を。」
「は、はい…。力を示せ」
礼暦錬は皆がしていたように、キーワードを唱え、ホログラムを表示させる。
「……。」
そこで礼暦錬は固まった。
今までみんなすごい能力だった。
勇者の祐樹を除いても、みんな明らかに強いだろうとわかる能力だ。多分、大厄災でも活躍するのだ。
礼暦錬は緊張していた。それは、少し期待していたからだ。自分も元の世界では、活躍出来なかったが、今回の大厄災なら自分でも活躍出来るのではないか?剣か?弓か?魔法か?何かに特別思い入れがある訳ではないができれば、剣が扱える能力がいい。剣には男のロマンがある。そんな事を少し期待していた。
だが、現実はそんなに甘くない。
「どれ。」
サビエロが礼暦錬の後ろに回り込み、ホログラムを確認する。
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『清掃者』
能力
清掃に必要な道具を自由に創造し、自在に扱う事ができる。
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「清掃者…。これは…。」
サビエロも予想していなかった能力に言葉を失ってしまう。
「清掃者だと?平民にも殆ど持つものがいない使えぬ能力だな。」
キースベルがサビエロから得た情報に対して自身の感想を述べる。
そして、この発言で礼暦錬は大厄災において使えない人物であると言うことが礼暦錬本人を含む、この場にいる全員の共通認識となってしまった。
「で、では次の者!」
サビエロの言葉で、鑑定が続く。
礼暦錬はクラスメイト達の中に戻ったが周りからの視線が刺さる。
早く帰りたいのに。
帰るためには大厄災を終わらせないといけないのに。
掃除なんてなんの役に立つんだよ。
役立たず。
足手まとい。
お荷物。
礼暦錬は、周りの皆が思っている内容を言葉で聞かずとも感じていた。自分だってすごい能力を手に入れた後、次の人が使えない能力だと知ったら同じことを思うかもしれない。
礼暦錬は全てを遮断するように、膝に顔を埋め、暗闇の思考へ落ちていったのだった。