4話:能力
「先ずは俺からだっ!」
鑑定の一番手は国英だ。
やはり何事も一番手はやりたくないものだ。
そんな時、国英のような性格の者がいると事がスムーズに進むから助かる。
「では、鑑定石の前へ!」
サビエロが国英に説明する。
ただの説明なのだから、そんな威厳のある声で説明しなくてもいいと思うのだが、大事な事なのだろう。
「では、国英殿、御手を目の前にある石球に重ねるのだ。」
国英の前には黒い石でできた球が置いてある。その石には意味は分からない紋様がびっしり彫刻されていた。
「おう!」
国英がサビエロに促されるまま自分の右手を石球に乗せた。
「うぉぉぉっ!」
その瞬間、石球に彫刻された紋様が青白く光り始めた。この光りは教室からこちらの世界へ召喚される際に魔法陣が放っていた光りとよく似ている。と言うことは、この石球に彫刻された紋様も一種の魔方陣ということか。
突然発生した強い光に国英も驚き、声を上げる。だが、石球に乗せている右手はまるで石球に吸い付いているように離れることはなかった。
シューゥンッ
小さな音が消えた。この時始めて石球が光った時から音がなっていたことに気づいた。耳鳴りのような感じだ。
「国英殿、右手を確認しなさい。」
「お、おう。」
国英は言われるがまま右手を確認する。
国英の右手首には、石球に彫刻されていた物と似た紋様がぐるりと一周、腕輪のように描かれていた。
「これは、自身の能力を確認するための魔方陣である。この世界では、産まれてまず、鑑定石を使い、この魔方陣を腕に施す。魔方陣は能力を確認するときに現れるが、30分ほどするとまた見えなくなる。まずは御自身の能力を確認せよ。」
サビエロがこの魔方陣について説明してくれた。これはゲームで言うステータス画面を開くために必要な魔方陣のようだ。このように説明してくれるのは、礼暦錬達が魔法についての知識がないためだろう。いきなり手に入れ墨いれられたらそりゃビビる。
「そりゃ、どうすりゃいいんだ!?」
「自らの手首に意識を集中させて、唱えなさい。『力を示せ』と。」
どうやら『力を示せ』と言うのが起動のキーワードらしい。
国英は早速実践に移す。
「うっし。……力を示せ!」
国英がキーワードを唱えた瞬間、国英の手首にある紋様が淡く光り始めた。
そして一枚の透明な板が国英の前に現れた。いや、実際には近未来SFなどに出てくる、ホログラフィックな感じだ。
「どれ…。」
サビエロが、国英の後ろに回り込み、ホログラムの板に書かれた内容を確認する。
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『大剣使い』
能力
大剣を創造し、自在に扱う事ができる。
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「大剣使いか。では、国英殿に能力を実践していただこう。」
国英の能力を確認したサビエロはそう言うと、国英の前へ移動した。
「国英殿が思う最高の大剣を自らの手に出現させる事をイメージしてみなさい。」
「お、おう。」
国英はサビエロに言われた通りイメージする。
目をつぶり頭の中にイメージするのは元の世界で流行ったモンスターを狩るゲームに出てきた大剣だ。自分の体よりデカく、一撃で大ダメージを与える強い剣が、自分の右手に出現する事を思い描き手を伸ばした。
「うぉぉっ!」
その瞬間、国英の手には3メートルはあろうかと言う大きな剣が握られていた。
剣の持ち手部分である柄だけでも1メートルほどはあるだろう。
そんな重そうな剣を国英は片手で楽々と持ち上げていた。
ブォーンッ!
「これが、俺の能力…。」
国英は自分が作り出した大剣を一振りして自らの能力を確認する。暴風のような風切り音に、周りの兵士までも「おぉ。」と感嘆の声を上げている。
「大したものだ。いくら能力と言えど初めからこの様な大きな剣を創造してしまうとは。もう、良いだろう。今度は剣が霧散する事をイメージしてみよ。」
国英の能力はやはりすごい様だ。見るからに強そうだから凄いのだろう。
ただ、いつまでも国英のターンにはしておけない。国英がサビエロの言うようにイメージすると、剣が光の粒となって消えていった。
「さて、次の者!鑑定石の前へ!」
国英が鑑定石の前から去り、サビエロが呼ぶ。
これから、クラスメイトの鑑定が始まるのだった。